襲いくるもの

184591日目
最近、中々美味そうな魂を持つ奴が来ない。というか、人が来ない。
魂を食べる悪魔の種類として、それは由々しき事態である。
もちろん死んだり飢えたりする訳じゃないが、なんとなく満ち足りない気分なのだ。
やはり、どのような方法でもいいからとって、己を満足させるのが悪魔としての道と見えたり。
だが、184589日前にミスを犯したせいで、人間に封印された我が身は遺跡から出られぬ。
……ふむ、そうだ。今珍しく来た人間に遺跡の事を触れ回ってもらおう。
お前の命が惜しければ、この遺跡のことを適当な旅人に話して回れ、と。
まぁ、言わないかも知れんが、ちょっと脅せばすぐに触れて回るだろう。
人というのは得てして強欲で身勝手なものだから。



184592日目
今日、早速冒険者が一人来た。予想外に早かった。
背中に変わった槍を背負った冒険者だ。魂の質としては中の下。まあまあだ。
何やら隠された秘法だとかお宝だとか言っていたが、あの人間が触れ回ったものだろう。
そんなものは全くもって此処には無い。あるのは自分の封印だけだ。
自分は何時ものように颯爽と現れると、その冒険者は驚きのあまり遺跡のトラップ用のスイッチを踏んだ。
トラップもほとんどが発動され、効力を失っているのにもかかわらず当たりを引くのは珍しいと思った。
その瞬間、床が抜けた。冒険者も落ちた。
確か、あれは遺跡の中でも一番深い落とし穴だ。人の身でアレでは助からんだろう。残念だ。
今日も魂は、食べられなかった。



184593日目
今日も一人の冒険者が来た。人間を逃してよかった。
見た事もないほどの臆病だった。そんなのだったら此処に来るなと言いたかった。
風の音に驚き、土が崩れる音に絶望し、昨日開いた落とし穴をみてひたすらに自分を責めていた。意味がわからない。
だが、魂は中の上。なかなかだ。
何時ものように颯爽と現れてみると、その冒険者はいきなり土下座した。
そしてひたすらに謝られた。命乞いかと思ったら違った。他人の家に土足で踏みあがった事に対しての謝罪だった。
冒険者の謝罪は3時間くらい続いた。いくらなんでも泊まった宿の6軒先の娘の隣町にすむ友人の彼氏のじいちゃんが老衰で死んだのにたいして罪悪感は持たなくてもいいだろう。というか、実際お前はそれ他人じゃないのか。
食べたら完全に体に異常をきたしそうだったのでとりあえず帰れと言った。めちゃくちゃ感謝された。
『悪魔がこの私のような卑下たる者に存在許可を出してくれるなんて』と覚えてしまった。とりあえず食べなくて良かった。
今日は魂を、食べなかった。



184594日目
今日は二人組みの冒険者が来た。順調だ。
一人は悪魔の自分から見てもびっくりするくらい闇の気を含んでいた。きっとアレは食べれば至福の美味さだろう。
だからちょっとはやる気持ちを抑えられなかった。抑えたらよかった。
何時ものように颯爽と現れたら、コンマ3秒でもう一人にブン殴られた。
びっくりしたけど、びっくりする間もなく亜高速でぶん殴られ続けた。
痛みはないけど、吹っ飛ばされまくるので遺跡がちょっと壊れ始めた。
しょうがないから逃げた。でも逃げたのに追いかけてくる。
もう悪夢だった。凄惨な顔つきをした人間が追いかけてくる。その眼は狩るものの眼をしていた。普通逆じゃね?
ちょっと悪魔行為に対して今までの被害者に謝罪したくなってきたとき、もう一人が止めてくれてくれた。自分は逃げた。
しばらくは行為を控えめにしてもいいかなと思った。でも悪魔だから5分で前言撤回した。
今日も魂は、食べられなかった。



184595日目
今日も二人組みの冒険者が来た。ちょっとだけトラウマ。
でも、今日は凄く美味しそうな冒険者がいた。昨日の奴よりとんでもなく美味しそうで、多分アレを食べたら千年は満足する。
昨日のことを思い出し、隙をうかがうことにした。
なんとか、一瞬を突いてその一人をいただく事が出来た。
後は魂を食べるだけだ。楽しみ。
今日ははやる気持ちを抑えるために早めに日記をつけた。食べたら感想を追記しようと思う。



とある遺跡の、とある隠し部屋にて。
「……ここに住んでいた悪魔は、マメだったようだな。」
ぱたん、とイレイスは手に持っていた本を閉じた。
傍にはくるくると眼を回したブロウが倒れている。
「まぁでも、コイツに眼をつけた時点で死に急いだわけだが。」
そういって、天を見上げる。
なにか大きなもので貫かれたような遺跡の天井は、空が青々と見えていた。


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