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in the アメールの洞窟。
ガイとルークとティルクはトレントとかその辺相手に修行をしていた。
「ルーク、そっちに行ったぞ!」
ガイが鋭く言葉をルークに向ける。視線の先にはコパン。非力とはいえ、ちょこまかしていて厄介な相手だ。
「わかってるって!」
ルークは。逃げ出すコパンに向けて魔神剣を放つ。
一直線に飛んだ衝撃波は、コパンを打ち抜いた。
「よっしゃ!」
思わずその場でガッツポーズを作るルーク。だが―…
「ルーク!その場から離れろッ!!」
ガイが先程よりも強く叫んだ。言われてルークが周囲を見渡すと、遠くはなれたところにチューパンが残っていた。
しかも、こちらに眼を向け何かを詠唱―…エナジーブラストだ。やばい、とルークは思うが一瞬の事で足が動かない。
しかも完全に油断していたから、構えもクソもなかった。
「ルークッ!」
ガイが走るが、間に合わないだろう。
チューパンの詠唱が完成し―…魔法が、発動する―…はず、だった。
「ぶぎゃぁ!?」
が、横殴りに飛んできたファイヤーボールにそれらは全て阻害される。くるくると目を回すチューパン。
その大きな隙を、ガイは見逃さず一閃。
「……ふー……。」
「たす、かった……」
ほっとその場で胸をなでおろすガイ。
ルークは唖然と、呟く。
「大丈夫ですか?」
ティルクが、二人に向けて歩いてきた。
「助かったよ、ティルク。……で、ルーク。」
ガイはティルクに笑顔を向けてから、ルークに厳しい目線を向ける。
「最後まで油断しちゃいけないって、何度言ったらわかるんだ?」
「う……」
ガイの責めるような口調に、ルークは言葉を詰まらせる。
「お前が武術の勉強をして、実際に何度も実習だってしたのも知ってる。けど、これは練習じゃない―…わかってるだろ。」
「……わかってるよ。」
なおも厳しい眼を、ガイは向けていた。
ルークは受け止められなくなり、すっと視線を外す。
「喧嘩、駄目です。」
ティルクはその二人の間に割って入る。
「……いや、喧嘩じゃないさ。」
ガイが言うと、ルークもうなずく。
だが、その間に流れる微妙な空気を感じ取ったらしく、ティルクは首をかしげた。
「……今日はそろそろ戻ろう。」
ガイのほうがおもむろにそう切り出した。
瞬間、ルークが明らかに不満そうな顔になる。
「なッ―…!何言ってんだよ!まだ2時間も経ってな……」
「ルーク。」
び、とガイがルークに指を向ける。
まるで聞き分けのない子を言い聞かせるように。
「いいか、戦闘っていうのは自分が思っている以上に体力を使う。
……さっきも言ったが、これはあくまでも修行とはいえ実戦だ。下手をすれば命を落とすんだ。」
ガイの言っていることは至極真っ当だ。
だからこそ、ルークは押し黙るしかない。
親善大使として少なからずとも自分は力の在るポジションに居る。それはお飾りだとしても、かわらない。
そんな自分がうっかり動けないような怪我でもしようものならば、ギルドが解散―…いや、下手をすればギルド員に罪をかぶせられるかもしれない。
「……わかったよ!」
ルークは粗暴に答え、出口へと歩き出す。
苛々としているのが、ティルクにも解る。
「……喧嘩……」
駄目なのに、とティルクは肩を落とした。
いつも仲が良い二人だから、余計にそう駄目だと感じるのだろう。
「ティルク、今日はすまなかったな。いきなりつき合わせて。」
気にしてない、というふうにティルクは首を横に振る。
そもそも今日は何をしようか迷っていたところに誘われたのだから、断ることは思いつかなかった。
「……焦ったって、しょうがないんだけどな。」
ガイは頭を掻いて、ルークを見る。
ティルクはルークが何を焦っているのかさっぱりだし、ガイが何をしょうがない、と言っているのかよくわからず、その場で首をかしげたのだった。
ルークは不承不承といった様子だったが、そのまま船に戻る事になった。
思った通りまだ日は高く、せいぜいお昼ご飯時、というくらいだ。
もちろんこんな時間に帰ってきたのは3人だけ。
他のギルドメンバーは別場所で各々行動しているのだろう。
「じゃあルーク、俺はちゃんと戻った事をチャットに報告してくるから休んどけよ。」
「……ああ。」
ガイはそれだけ言うと、甲板から船の内部に入る。
依頼を終えた後、修行を終えた後、とにかく船から出た後はチャットに報告する義務がある。
「……はぁ。」
ルークはその場でため息をつく。
「疲れました?」
「んー…いや。俺って、駄目な奴だな―…って……」
ルークが思い出すのは、今日の戦闘。
自分でもいくらか倒したが、殆どガイがあらかじめ蹴散らしてくれたお陰だ。
ティルクのサポートも的確な物で、自分が改めて無力だという事を見せ付けられたような気がした。
「何が駄目なんですか?」
「親善大使として、皇国の王子として守ってもらってきてばっかりだったからさ。
そんなんじゃ駄目だ、って思って武術の事もやってきた。でも、力になるどころか足引っ張って―…変わらず、守られてるままだ。」
「守られるのは、駄目ですか?……魔術師も、守ってもらってばかりです。」
不思議そうな顔で、ティルクは問いかける。
始めこそたまに杖で殴りに掛かっていたらしいが、反撃にあう確立が高すぎて後ろに居てくれと懇願されたほどだったからだ。
「それでも、ティルクはちゃんと魔法でも戦える。でも俺はそうじゃない。」
アメールの洞窟を、じっと見つめる。
もっと力をつけたい。もっと戦えるようになりたい。守られるのではなく、守る―…
拳を力強く握り締めて、ルークは、願う。
「……強くならないと。」
そう呟く。一刻も早く強くなりたい。
考えるだけで、船の降り口に向かってしまう。
いけないことだとは、解っている。けど、体が焦ってしまって、どうしようもない。
「ティルク、俺ちょっとだけ外に行く。直ぐ戻るって、ガイに伝えてくれないか?」
声を掛けると、ティルクは小走りでルークに追いつく。
「直ぐ戻る、なら大丈夫です。」
「……ありがとな。」
再び、アメールの洞窟。
流石にあまり奥に行ってしまっては駄目だろう。
そう判断して、入り口からさほど離れてないところでたまに走るオタオタやチュンチュン相手に奮闘していた。
「ストーン、ブラスト!」
ティルクが杖を向けた先にいるオタオタに、無数の小さな石つぶてが襲い掛かる。
「はぁ―ッ!!」
大きく体制を崩されたオタオタに、ルークが切りつける。
そこで決着はついた。
「……ふぅ。もうそろそろ戻らないとガイにバレるよな。」
洞窟に入って一時間と経ったくらい、ルークが切り出した。
流石に『こっそり抜け出して修行続けてました☆』なんて言えるほどルークは馬鹿でもない。
こくん、とティルクはうなずく。
そもそもティルクはルークについていくことを目的としたのだから、彼が居たいといえば何時までも一緒にいるだろうが。
ルークが数歩歩き出して、その隣をティルクがつく。
だが、ぴたりとティルクは足を止めた。
「……ティルク?どうしたんだよ。」
ティルクはルークの問いに答えず、すっと杖を向ける。
ルークも流石に何かがあるのだと思い、剣を抜いた。
前方の影から、のしり、のしりと何か大きなモンスターの足音が聞こえだす。
「……大きい、です。」
剣を握る手にも、力が入る。
やがて、姿を現したのは大きなカメのモンスター…タイラントトータス。
「な、なんでこんな所に……ッ」
ルークは驚きの声を上げる。
確か誰かが調査していたはずだが、それはもっと奥で出会った、と聞いた。
足が遅いから逃げる事も可能だろうが、生憎モンスターは出口をふさぐように君臨している。
「―…ライトニング!」
直ぐ後ろですぐに詠唱を開始していたらしいティルクは魔法を発動させる。
小さな雷が命中するが、モンスターは一瞬ひるんだだけで特にダメージはなさそうだ。
「……くッ、やるしか―…ない!」
ルークは剣を握り、直線に走る。
再び後ろではティルクが詠唱。今度は少し強力なのを唱えるつもりか、周辺に集まるマナの量も大きい。
「くうッ!!」
剣を振りおろすが、固い甲羅に阻まれる。
固いものがぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、ルークは勢いを殺しきれずに後ろにすべるように下がった。
なんとか体制を整える……これもモンスターがこちらを狙ってこなかったからだ。
何故ならタイラントトータスはルークではなく真っ直ぐにティルクに向かっていた。
詠唱中は、身動きが取れない。それはルークも知っている。
「ティルク!」
ルークが叫ぶが、ティルクは一向に逃げる気配はない。
むしろ、頑なとして詠唱を続けている。
気づいているのか、いないのか―…ルークはとにかく駆け出した。
幸いにも、タイラントトータスの歩みは鈍い。
「間に合う。いや、間に合わせる!」
ルークは駆ける。
滑り込むように割って入り、一撃を剣で受け止める。
ぎぃん、と剣が悲鳴をあげ、ルークの手から滑り落ちた。
変な受け方をしたからだろうか、手がびりびりとしびれる。
「―…サンダーブレード!」
ルークの後ろで詠唱をようやく終えたティルクが杖を振る。
魔法が発動し、宙で形成された雷の刃がタイラントトータスに突き刺さる。
雷光、続いて爆音。
タイラントトータスは、体中から煙をしゅうしゅうと上げながらごろりと転がる。
気絶させただけか息絶えたのかはわからないが、ひとまずはしばらく襲ってこないだろう。
「な、なんとか……なったな……」
ルークは倒れた巨体を見つめて大きく息を吐く。
自分ひとりでは決して挑んでも倒せない相手だろうというのがわかるだけに、なんと無茶な事をしたかと今更ながら感じた。
「大丈夫でした?」
その隣でティルクはルークの手から落ちた剣を拾い上げ、ルークに差し出す。
「うん。……じゃ、なくて。ティルク、どうしてさっき逃げなかったんだ?」
剣を受け取り、鞘に収める。
「信じてました。」
真っ直ぐに。
真っ直ぐにティルクは、ルークを射抜くように見つめていて。
ルークは一瞬だけ唖然としたが―…すぐに、自分が信用されているという事に気づいて、気恥ずかしそうにぽりぽりと頬を引っかく。
「う、で、でも間に合ったから良いようなもんだけど、あんまり、その、危険な事はするもんじゃないし……」
ルークは口ではそういうが、自分も自分で大概危険な橋を只今渡っていることに気がつき、さらに言葉が少なくなる。
ティルクはそんなルークに小さく笑う。
「わ、笑うなよ……ったく、帰るぜ!じゃないとまだジェイドにどやされちまう!」
こくん、とティルクはうなずく。
ルークは照れなのか何なのかよくわからない感情に顔を熱くさせるのを感じながら、洞窟の出口に向かったのだった。
ちなみに後日談。
「ルーク、俺が言いたい事、わかってるよな?」
ニコニコとガイは笑っている。
その笑みの奥にはしっかりと怒りの感情がともっていた。
「わ、わかってる……その、わ、悪かった……です。」
その前にしっかりと正座させられているルーク。
……と、ティルク。
まあ、何故こういうことになったかというと答えは単純。
前略 バレました☆
(おい、ティルク、俺が誘ったのが悪いんだしお前が一緒に怒られなくても)
小さな声で、ルークはティルクに告げる。
ティルクはふるふると首を横に振った。
そして、小さく口をほころばして。
(一緒が良いです)
「―…ッ!!??」
その言葉に、ルークはかなり同様したのか顔を一瞬で真っ赤にさせる。
「おや、もてない男の僻みですか?」
そのやりとりを遠くから見ていたらしいジェイドが一言。
「違う!断じて違う!!」
ガイは必死で否定するが、はてさてどのように写ったのやら。
ティルクルークって書くとチルチルミチルみたいだよね。