夏のドキ★ワク 下水道掃除


「前フリは一切もう無しにしよう。単刀直入に言う。金がない」
ここ、冒険者の宿の1階は酒場になっており、冒険者たちがそこで飯をくったり依頼人と話をつけたりするのだが――……
その一角で、奇妙に重苦しい雰囲気を朝っぱらから出しているテーブルがあった。
そこには、リーダーのブロウをはじめとした何時もの面子がそろいもそろって同じように暗めの顔を作っていたのである。
「な、無いって……どのくらい?」
ブロウが恐る恐ると言った風に問いかけると、イレイスはそっとテーブルの上に硬貨を3枚落とした。
この世界での通貨の単位はあるのだが、日本円にするとおおよそ30円程度だと思ってくれていい。
「これがパーティの全財産だな」
「ちょっと待ってください、何故こんな悲惨なことになってるんです」
セツナが軽く引きつった顔を作りながら硬貨三枚30円に目を向ける。
うまい棒なら3本買えるが残念ながらこのパーティは5人、半分にして分け合う前提であっても喧嘩が起こりそうなものである。
「原因その1、どこかのアホが情に絆されて報酬を受け取らなかった。
 その2、どこかのボケが別の依頼で暴力に走って減額された。
 その3、どこかのバカがさらに別の依頼で剣ぶち折って修繕費が高くついた。
 ――そして最後に、私が上記三件の減額換算を予想できなかった。以上だ」
アホボケバカ、つまるところブロウとルートとシンヤが各々苦い顔をする。全員それぞれ思うところがあったのだ。
「だ、だって……村にお金ないし、今から復興作業もあるって言ってたし……!」
「あいつ、せっちゃんに対してセクハラ働いたんだよ!!
本当は首から下をじっくり鑢で削り落としたかったのに我慢したんだよ!」
「…………。必要経費だった」
3人が各々言い訳をするのを見て、その光景をしっていたセツナは何も言わずたったひとつため息を吐いて――ゆるりと首を横に振った。
済んだ話だ、どうしようもない。
今はただ、30円では生活できないという現実だけがあるだけなのだから。
「……で、だ。つまるところ生活費は早急に用意しなければならない。お前らも今日の依頼の内訳は見たな?」
「うん、見てきたよー。……珍しくって言うか、運悪くって言うか殆ど中期〜長期の依頼だったよね……」
ルートがイレイスの問いかけに対して答える。
並んでいたのは別の町の依頼が殆どのもので、馬車で移動しなければならなかったり、そもそもの拘束期間が長いものばかりであった。
依頼を受けて報酬を支払われるまでに前金として受け取れる事もあるが、悲しいかな今日の依頼にはその旨が書かれているものが無かったのだ。
「……一件を除いてな。……おい、もしかして、アレをやるのか」
「おお、バカの癖にご名答。というかそれしか我等に道が無い。たとえリーダーが何と言おうともな」
そうしてイレイスがぴらりと取り出したるは、1枚の張り紙。そこにはでかでかと『下水道清掃の依頼』と書いてあったのだ。
この街には、古代遺跡として巨大な下水道が通っており、今もなお使われている。
生活排水だけでなく、もうなんかいろいろヤバイものまで垂れ流しになっている背景があり、こうして時折街の清掃局と名のつく管理団体から冒険者向けに対して清掃依頼がやってくるのだ。
――何故荒事の得意な冒険者に依頼を出すかって?……一般人では対処できないようなファンキーな状況になっていることが多々あるのである。
「う、で、出た。冒険者悪夢名物、下水道清掃依頼……安い臭い時折ヤバイの代名詞……ってあれ、何か報酬高くないか、それ?」
ブロウは張り紙を読んでいたのだが、報酬の欄に不思議そうな顔を作る。
大体この手の依頼はびっくりするほど低報酬な事で冒険者間で有名になっているのだが、
普通の依頼の同等、いや少し安いくらいかな、という価格が書いてあったのである。
「ああ、魔法の研究施設立ち並ぶ危険区域の清掃だからな。水が詰まっているような節があるらしい」
「それ確実にヤバイやつじゃないですか」
イレイスの言葉に実にいやな顔をするセツナ。
その瞬間、ばんとルートが机を強くひっ叩く。唐突に大きな音がなったので、全員がそちらを向いた。
「待って……何でいっちーはせっちゃんに下水道掃除なんて恐ろしく汚らわしい事をさせようとしてるの!?」
「金がないと言っているだろうボケ。言っておくが私は一人だけおぞましい作業から抜けさせてやるほど慈悲はないからな」
ルートの真摯な瞳は即刻イレイスが切り捨てる。
セツナは全く期待していなかったようで、面倒くさそうな視線を二人に向けるだけであった。しかしルートはなおもイレイスに食いかかる。
「そんなこと言ったってせっちゃんが下水ヘドロまみれになるなんて耐えれないよう!だったら僕が二人分働くからさあー!!」
「五月蝿い黙れ参謀命令だ。ほらさっさと行くぞ、時間と頁の無駄だ」
ルートの意見をまるっと無視してイレイスは立ち上がる。
それを見たセツナも同じように立ち上がったので、結局ルートはむくれながらも口を閉ざすしかなかったのだ。
「……ま、まあルート、セツナに仕事させなきゃいいだけだろ?期待してるぜ?」
「むー、そうなんだけどー、そうなんだけどー!!」
……なお、道中こうしてブロウがとりなしていた事を、一応説明しておく。



――下水道、危険区域。
すぐ上に魔法の研究所が立ち並ぶこの一角では、月一単位で何かしらの問題があるとかないとかとまことしやかに噂されている。
石造りの立派な古代遺跡は今もなお老朽化することを知らず、その水路に水を湛えているはず、なのだが――……。
「……ホントだ。水の流れが悪いなぁ……」
あれから清掃局の人間に話を聞いた一同は、各々掃除用具を手にして下水道へと降り立っていた。
薬品と何かいろんな物を混ぜたような奇妙な臭いが周辺に漂っている。
さらにいうなればヘドロみたいなのも通路にこびりついていたりと、中々掃除のしがいがありそうである。
「その原因を取り除けばさらに追加報酬、と。狙って行きたい所だな」
「大体水路の奥のほうに向かっていけばそのうち何かとぶつかり合いそうだけどね」
ルートは言葉通り、そ辺のヘドロをこそぎ落としては水路の中に突っ込ませていた。
先も行ったとおり、水の流れが悪いため、汚れは沈んでいくばかりで流れていかない。
「……まあ、それもそっか。掃除しようぜ。水路の異物も一応とっとかないとなー」
網を片手に持ったブロウがなんかおぞましい色をしている水の流れに突っ込んでみる。
ぬちゃりといやな感覚ばかりが手に残り、わずかに顔をしかめた。
「うわー、いったい何流れてんだよこ……れ……」
掬い上げた網の中には、なんかぷるぷるとしたゲル状のものが絡み付いており、ブロウは絶句する。
しかもこのぷるぷるはよく見なくてもうにょんうにょんと動いており、網の中で不規則に波打っている。彼の方を、ぽん、とイレイスが叩いた。
「良かったなブロウ、スライムを引き当てたか」
「よかねーよ!?くじ引きの一種でも何でもねーんだよ!!とりあえずやっつけるぞ!」
スライムなど、いくら魔法生物の一種で武器による攻撃が通りにくいとはいえこの場にはセツナも、というか魔法のスペシャリストのイレイスが居る訳で。
当然誰一人怪我を負う事も無くで難なく討伐できるので以下省略。
「あー……びっくりした。こんなもん大量にいたら水が詰まっちまいそうだよなあ……うえ、想像したら嫌になってきた」
「そうなったらがんばれよブロウ」
「何で他人事なんだよ畜生!兄貴も働け……っていうか掃除しろよー!」
イレイスの手には清掃道具のひとつも無く、ただ避難するように壁際に寄って批難しているばかりである。
しかもブロウの突っ込みに対し、物凄い馬鹿にしたような顔をしながら鼻で笑っていた。
「誰のせいでこんなアホみたいな依頼受ける羽目になったと思ってるんだアホ。アホはアホなりに手を動かせアホ」
「うぐっ……」
原因の一端が自分にあるせいで、思わず黙り込んでしまうブロウ。 二人がこうしてのんびりコントなどを嗜んでいるその隣では、通路のヘドロやごみを取り除いていたルートがわあお、と素で驚きの声を上げていた。
「……しんやん、見てみて。絵本でしか見たことないようなのが居るよ……!」
そうしてルートが奥をさしたのは、腰の位までありそうなうぞうぞとうごめく細い管のようなものの集合体に見える……
どう見ても触手です、本当にありがとうございました、な生命体。
体液でぬめっているらしく、ランタンの明かりをわずかながら反射している。
「……何故俺に言う」
「だって……!もしもせっちゃんに言って不用意に近づいて、アッーんな事やこんな事になったら僕男としてどんな顔していいかわかんないよ!
 しんやんだったらそのままぶった切れる!遠慮なくたたっ切れるからさああ!」
わっと一人で盛り上がって顔を覆うルートに、シンヤは実に冷たい目を向けていた。絶対零度であった。
そして彼の言う絵本とはいったい何なのか。絵が多い本で絵本なんだよ、うん。
「シンヤ、不快だと思ったら遠慮なく殴り飛ばして良いんですよ?オレが認めますから」
その話を聞いていた、というか狭い水路内でものっくそルートの声は反響していたのでばれるばれないとかそういう次元の話ではなかったらしく、
セツナが口元だけゆがませた奇怪な微笑を携えてシンヤに助言を与える。
シンヤはもちろん大の大人なので助言どおりに行動を起こしたりはしなかったが。


――とにもかくにも、こんな調子で清掃を続ける一同であった。
途中なんかもっとでかいアレな生命体がいてイレイスにけしかけられたブロウがトラブる(誤字ではない)にあったり
魔法薬の御蔭で変に巨大化したねずみがいてブロウが食いつかれていたり、
流れ着いた薬品から漂う匂いをモロにかいだブロウが水路にダイブしたり、でかいスライムが唐突に天井から降ってきてブロウに纏わりついたりと
ともかくなんかブロウがやったらひどい目にあっていたが今回の話とは割と関係ないのでさくっと省略しておく。


「帰りてぇ……!マジ帰りたい……!」
服ははだけ、あちこちにねずみにしては大きすぎる噛み付き痕を残し、
全身はぐっしょりぬれ、あとなんかべたべたした何かにまみれているブロウはぜえぜえと一人息を荒げながら半分涙目になりつつ奥へと進んでいく。
その後ろに居たイレイスが露骨なほど不快そうに顔をしかめていた。
「ちょっとブロウお前風上歩くな。妙な臭いがに下ってきて非常に不愉快なんだが?」
「うるせえええ!不愉快なのは俺のほうだよ!あと地下通路に風上風下ねーんだよ!!」
振り返ってイレイスに怒鳴りつけるブロウ。
やれやれと肩をすくめるイレイスにさらに怒りを覚えそうになったが、
掃除を早く終わらせたい一身で再び顔を前に向けると、ぼよんとなんかよくわからないものが体全身にあたった。
「……こんなところに壁か……?」
シンヤがランタンを掲げ、奥を照らしてみるが、目の前にある壁のような何かにさえぎられて光はそこでとまってしまう。
「いや、壁にしては弾力が……ある、んだけど……」
ブロウが恐る恐ると言った風に触れてみると、なぜかぷにょんぷにょん、と摩訶不思議な感覚が帰ってくる。生き物の一種なのだろうか。
水路というか、消して広いとはいえない下水道の上からしたまでみっちりとつまっており、その隙間からわずかに水が漏れ出しているのが見えた。
「……こいつが詰まってた、って事になるんですかね。つまり、これをどうにかすると報酬が増えるわけですね」
「その前に鉄砲水が襲ってきて大惨事だろうがね」
セツナもイレイスも各々照明を掲げて状況を確認していく。しかし、深い緑色をした生き物が壁になっているということしか理解できない。
ぶち倒してしまえば問題も無いのだが、先にイレイスが言ったように多量の水がこちらを飲み込むことになるだろう。
「あ。起きたみたいだよ。あそこに目が出てきた」
ルートが上のほうに目を向ける。そこには一つ目の大きく赤い瞳がこちらをじとりと見下ろしていた。
いや、動こうともだもだしているのだが、思った以上にみっちり詰まっていて本人でもにっちもさっちも行かなくなっているらしい。
「……ふむ、これは魔法生物の一種だな。本来はあの辺とかあの辺にも目があるのだが、どうやらみっちり詰まって埋まっているらしい」
それを見てイレイスが気づくものがあったようで、あの辺とかあの辺にも、のあたりには上部と下部を指していた。
話を聞くだけでは、なんとも間抜けなものである。
――……そんな解説をしながらも、イレイスはじりじりと後退している。それを隣で察したセツナも何も言わずに下がっていた。
「魔法生物?」
「ああ、この真上にある研究施設で作成した魔法生物を一匹逃がしたとかなんだとか。
 ……水を吸い大きくなる性質があってな、この辺で詰まってしまってどんどん膨れ上がって言ったのだろうよ」
「へー、相変わらず兄貴は物知りだなぁ……って、オイッ!」
どんどん遠ざかっていく解説の声に不思議に思ったもののブロウは振り返る。するとそこにはイレイスは居なかった。
いやいるのだが、完全に画面外だった。声ばかりが反響してこちらに聞こえてくる。ついでにセツナの姿もきれいに消えていた。
「いやだってお前これ倒さないとだめだろう。私はヘドロまみれの汚水を食らうなどごめんなんでな?」
「なんでな、じゃねーよ!?なにさも当然のように逃げてんだよその発想にびっくりだよ!」
「――ブロウ、避けろ!」
遠ざかるイレイスの声になおも突っ込みを入れていたブロウだったが、そこにシンヤの針のように鋭い声が突き刺さる。
流石に長年冒険者をやっていないブロウはその声に反応し、ぬちゃぬちゃと音を出しながらもとっさにその場から離れた。
直後、雷撃が走るような音がしたかと思うと、たまたまそばに転がっていたモップに光の線が命中したようで、
ぱきぱきと音を立ててモップが石のように硬くなっていく。
「あ、言うの忘れてたけど石化光線出すから気をつけろよー……」
「気をつけろよー、じゃねえよ言うの遅ぇよあと本格的に逃げやがった!」
ブロウは殆ど声の聞こえなくなった背後にひとつ怒鳴りつけてから改めて目の前の目玉お化けと対峙する。手の中がぬめっているのが非常に気持ち悪い。
「まあまあ、落ち着きなよぶろりん。逆に考えると、いっちーが逃げたって事は僕らで何とかできるって事だよ」
そうブロウをとりなすルートだが、やはり少年もまたじりじりと後ずさっている。
そこをさらにシンヤが苦い顔を浮かべていた。ブロウもなんともいえない顔になっていた。
「だからさ、僕も居なくたって大丈夫だよね。せっちゃんが心配だし、それに何より、僕もヘドロくらいたくないんだよね……」
「……。あの二人は兎にも角にもお前も此方と同様にやらかした側だろう」
シンヤが咎めるようにルートを睨み付ける。何だかんだでセツナとイレイスをスルーした背景には、自分がどう行動を起こしてもあの二人の行動を阻害することなどできない――という諦めの境地からきたわけではなく、唐突な出費や依頼の減額を起こした原因ではない故に、そこまで積を負わせる必要はないと考えていたというのがあるのだろう。生真面目な男である。
「えーだって、僕子供だよ?12歳だよ?……
子供のオイタはしょうがないってよく言うじゃん」
「自分で子供って言うのはどうかと思うけど。……流石に子供のルートは死ねると思う」
「でしょ?さっすがぶろりん、話がわかるう!じゃ、後は二人でがんばってねー!」
だから、とブロウがルートをフォローするための言葉を続けるその前に、ルート自身はさっさと来た道を全力疾走、脱兎のごとく去った。
盗賊本来の機動力をフルに活かしたらしく、あっという間に彼の腰に下げたランタンの光すらも見えなくなってしまう。
「……はぁ。俺はもうここまでこうなっちまったから、今更ヘドロ食らおうが水にながされようがいいけどよ、シンヤも逃げちまっていいんだぜ?」
「……まさか。俺はお前とならここで果てようとも悔いは無い。たとえ旅の途中帰らぬ人となろうともな」
そうしてシンヤはシンヤでいたって真剣な顔つきで巨大な剣を構えていた。
その姿だけを見れば、悲壮ながらも誇り高い決意を胸に宿した気高い騎士に見えただろう。
しかし下水道の目玉お化け退治という状況が状況であるが故に、中々奇怪な光景でもある。
「シンヤ、そこまで悲観的な状況じゃないと思うけどなこれ。……ともかく、気合入れて行くぞ!」
「ああ。合わせよう」
そして再び放たれる石化の光線をブロウは紙一重で避け、片手剣から放たれる鋭い一撃を目玉お化けに見舞う。
それと同時に、シンヤがその巨大な剣でどてっぱらを思いっきり貫いてみせると、痛みの余りに目玉お化けは良くわからない半濁音まみれの悲鳴を上げると共に身をよじりだす。
さらにシンヤが剣を引き抜くと、その傷口から思いっきり何かの液体が噴出した。
「――うわっ!?なんだこれ……体液……にしては薄いような。殆ど……水か?」
ブロウが避けながらも周囲に付着したものを見ながらつぶやく。
ほぼ透明に近い薄紫色をしているように見えるそれは、いたって普通の水に見えた。
「……おい、ブロウ……不味いかもしれん」
「どうしたシンヤ……げえっ!?」
はてさて皆様、水のたんと入った水風船に太めの針をぶち込んだらどうなるだろう。
まず、抜いたら水が漏れる。それだけではなく同時に水風船の体積が縮まる。
みっちり詰まっていた目玉お化けも、同様のことが起きていた。
だが、この化け物は水だけを吸っていたわけで――ほかの物質には非寛容だったらしい。
どうにもこうにも上のほうでたまっていた水以外のものが土砂となり降り注つつあるのが二人に見えたのだ。
「……流石にあんなもんどうしようもねえぞ……下水道で溺れ死ぬとか嫌過ぎる!つうかぜってぇ解ってて言わずに逃げたな兄貴の野郎!」
「ブロウ、そこは後で突き詰めるとして逃げるぞ!」
二人は剣をしまってきた道を必死に戻りだす。
しかし、目玉のお化けはその間にもどんどん自分の体積を減らして行き、みちりと詰まっていた水路に隙間がどんどんと減って行き、十数秒語にはヘドロ入り混じる汚水が鉄砲水として二人に襲い掛かったのだった。
「うわあああああ!?来てる来てるきて……ぎゃああああああーー!!!」
――なお、直前ブロウのすげえ情けない悲鳴が上がったことを、ここに追記しておこう。



「いやー、下水道清掃にしては中々いい報酬だったな。これでしばらくは安泰だ」
「水詰まりも無くなって賃金も増えましたしね。
今日はいいものが食べられそうで何よりです」
晴れやかな空。透き通る空気。
イレイスとセツナは、にこやかに会話を交わしていた。手には重みのある銀貨袋。二人の表情も空と同じくしていい物であった。
「うん、でも惜しい物を無くしたね……」
「ああ。しかし身の安全を最優先にすべきだったからなあ。……見たかったものだ、弟の下水流れ」
はふう、とイレイスがルートに同調するようにため息を吐く。
そう、鉄砲水に流されたあの二人は幸運にもというかギャグ補正というか、とにもかくにも無事であったのだ。
全身によくわからない何かにまみれていたので、流すために清掃局で水を借りているのである。
「それ、ブロウが聞いたら怒りますよ、今回は流石に」
「大丈夫だ。あいつがキレても大した事無いからな。どうせ口先三寸で丸め込めるし」
セツナの言葉にははは、と軽やかに笑うイレイス。セツナも何も言わずに乾いた笑みを浮かべるばかりであった。
この兄をそばにおいてよくもまああの弟はお人よしを続けられるものだとしみじみ思う。
「……あ、噂をすれば出てきたよ」
「――おお、ホントだな。少し申し訳なさそうな顔しておこうかねえ」
ルートの声に合わせてイレイスは出てきたシンヤとブロウに目を向ける。
なお、この後確かに一揉め二揉めもあったのだが――……
まあ、何時もどおりに何時もどおりの結末を迎えたのでパーティは今日も平和だった、という文句で締めさせてもらおう。

めでってぇ!


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