--イシュネー王国-- 1話

大陸南東部に位置する、イシュネー王国。
魔法が発達しているこの世界で、その最先端を歩んでいる場所だ。
高等魔法専門学校をはじめとして、魔法を学べる学園が多数存在している。



これは、そのなかの、一つの魔法学校から始まる物語。



イシュネー王国、北東部に存在する魔法学校にて。
この学校は、特別高等魔法を覚えることが出来るというわけではないが、
基礎を固め、将来につなげることのできる魔法を学ぶことが出来る―…
例えるならば、進学学校のようなところである。
「せんせー、話ってなんですかー?」
そんな学校の『生徒特別指導室』と札のかかった一室にて。
一つのすこし大きめの机をはさむようにして、女生徒と教師らしき人間が対面していた。
先生、と呼ばれた男性は、まるい眼鏡をかけていて、その手には数枚の資料のような紙を持っている。
胸に下げられた名札には「シスキル」と彼の名前が書かれていた。
「ぇーっとですねぇ、すごく言いにくいことなんですけど…リズさん。」
「はい、なんでしょう。」
どうやらこの生徒は、リズというらしい。
シスキルのどことなく躊躇いがちな瞳をしっかりと受け止めている。

貴方、今期のテストで落第が確定しました。

「…は、い?」
リズはきょとん、とした瞳に変わる。
そんなリズの目の前で、シスキルは手にしていた資料を机の上につらつらと並べ始めた。
一つは、赤ばかりが目立つ成績表。
もうひとつは、×印だけのテストの答案用紙。
そして最後の一つは、校長先生のサインがされた、重要そうな書類。
「とりあえず、これを読んで、留年をしてでも学校に残るか、それとも―…」
「ちょっと待ってください!!落第ってどういうことですか!!」
ショックから復活したのか、バン、とリズが机を思いっきりひったたいた。
意外にも大きな音が響いて、シスキルが小さく悲鳴を上げる。
「で、ですから、貴方、今期のテストも点数が壊滅的」
御託はいいですッ!!
リズは椅子を蹴り上げ立ち上がると、横からシスキルの首えりを引っつかみ、
無理やりこちらに向けさせる。
その表情はさながら百獣の王にも負けず劣らずの殺気をかもし出していて、普通に怖い。
「どーして、アタシががんばってるのにそういうことしてくるんですかッ!」
「いえ、ですから!これは結論ですから!っていうか、貴方そもそも授業でも寝てばかりで」
「先生のこと、信じてたのにぃー!!」
そういって、シスキルの首を激しく上上下下左右左右BAとシェイクし始めるリズ。
がくがくとされるがままのシスキル。
その口から上がる悲鳴もどきは壊れた蓄音機から流れる音に似ていた。
「もーいいです!アタシのことをわかってくれないなら、わからせてやるまでですよ!!」
ずがぁん、とリズはシスキルの座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
もちろん、座ったままシェイクされたシスキルは焦点の合わないまま床に思いっきり倒れた。
目を回し、頭には星がとんだままのシスキルに、リズは続ける。
「とってきてやりますよ!伝説の魔法!それがあれば認めてくれるんでしょ、ばーかばーか!」
多分聞こえていないだろうが、頭に血が上っている彼女にはそんなこと気がつきはしないわけで。
リズはくるりときびすを返すと、部屋のドアをダッシュで潜り抜けて行ったのだった。



 「伝説の魔法」。
四つの大陸に囲まれた海…内海の中央に位置する孤島に存在するといわれる、創世神の遺物。
この世の魔法は元素を用いて現象を構成する技。その理を覆す「願いを形にする魔法」。その呪文の名前は「ボレロ」。
言うまでもないが、この世界で最高の魔法。
手に入れるためにはどこにいるかもわからない「五聖」と呼ばれる仲間に導かれ、あらゆる物を阻む内海を越え、
おおよそ思いつく限りの欲望で満たされた島の最深部へたどり着き、大きな代償を払って習得する。
…と、学校の図書館の物語ばかり集めた棚で見つけた本に書いてあったような気がする。
とにかく、世界最高水準の魔法の入手はそう簡単にいくわけではない。当然といえば当然だ。
願いを形にする魔法がバナナの叩き売りよろしくほいほい手に入れば今頃世の中魔法使いであふれかえっていて、リズだって楽して生活しているだろう。



 さて。勢いに任せて生徒特別指導室どころか学校まで飛び出してきたリズはとりあえず行くあてもないので家に向かって歩いていた。
リズの家は学校からおおよそ北東へ歩いて半刻ほど。ぶつぶつとシスキルに対する文句や何故自分が留年しなくてはならないのかなどと呟いていたのだが…
はたと立ち止まり、大きな声を上げた。
「しまった!今シスキル先生気絶してなかった!?気絶してたらあの約束聞いてないかもしれないじゃない!!」
リズは学校へ戻ろうかと体を反転させようとしたが……
「…やめた」
再び家へ向かって歩き始めた。
今戻ってシスキルに改めて宣言するのもなんだかかっこ悪いし、そのあたりのことは置手紙にでも書いておけば問題ないだろう。
あくまで伝説の魔法の取得をあきらめる…という選択肢は彼女にはないらしい。リズは良く言えば常にポジティブシンキング、悪く言えば鉄砲玉娘であった。
それよりも今考えなくてはならないのは、いつ、どうやってボレロを手に入れるための旅に出るか…ということである。
十六の少女がいきなり「世界最高の魔法が欲しいんで、ちょっくら行ってきます!」と言ったところで周囲の反対に遭うのは確実である。
とは言うものの、周囲を説得する時間も話術もリズは持ち合わせていない。となると……口にするまでもないだろう。リズはにや、と含み笑った。
 「ただいまー」
「リズ、あんた学校は!?」
リズは家に帰るなり、母親に叱られた。リズはぷーっと頬を膨らませ、さもうっとうしい。と言わんばかりに顔を背ける。
「お腹痛いから早退したの。ちょっと寝てくる」
「…あぁそう?お大事に……」
母親はリズの剣幕に負け、すたすたと部屋へ向かうリズを見送るばかりであった。
 さて、リズは自分の部屋に戻ってきた。小さいながらもリズの趣味と夢が詰まった城である。
そこでリズはカバンを放り出すと、部屋の真ん中に立つ。
今の母親の状態からして、やはりボレロを手に入れる旅に出ると言ったところで許してもらえそうにない。
しかしリズだってもう引っ込みがつかないところまできている。とにかく一刻も早く既成事実を作ってしまわなくてはならない。
よし。拳を握ったリズはクローゼットから手持ちの中で一番大きなカバンを引っ張り出した。
旅立つなら今夜……いや。夕方だ。
おそらく学校が終わればシスキルがリズの様子を見に家に来るはずだ。
そこでシスキルがリズの言葉を母親に告げれば、母親は全部知り、リズはマークされるだろう。そうなったら旅立ちどころか落第である。
リズは旅をするのに必要な道具を思いつくだけ片っ端から部屋の真ん中へと引っ張り出した。
「とりあえず着替えと、お金と、あと何がいるかしら。旅なんて……
 せいぜいイシュラント(イシュネー王国王都)まで3泊4日くらいしかしたことがないからよくわかんないなー……」
一人でぶつぶつと言いながらリズは荷造りを終わらせ、ありったけのお金をポケットに突っ込み、冬用のマントをかぶり、窓から外へと飛び出した。



 その日の夕方。
リズの予想通り、シスキルがリズの家にやってきた。
そして、リズの予想通りシスキルはリズの言葉をリズの母親に告げた。
違ったのは、シスキルの言葉を聞いたのはリズの母親だけでなくリズの父親もであった。
3人は慌ててリズの部屋へやってきた。
…が、既に遅し、リズの部屋はもぬけの空であった。
「ボレロを探しに行きます。心配しないでください」という書き置きを残して……



「…って、勢いづいて出てみたはいいけど、どーしよっかなー、これから。」
最終目標、ボレロの習得。
過程は、なし。
…彼女の性格が垣間見える瞬間である。
リズはガラガラと大きめのトランクを引きつつ、ぼんやりと夕暮れの町を歩いていた。
「んー、情報収集するにも委員会のほうは5時で一般受付は締め切りだしー…」
リズは町の中心に高くそびえる時計塔を見上げる。
長い針は6のところに、短い針は5と6の間を指していた。
ちなみにここで言う委員会とは、魔法使い倫理委員会のことであり、要するに魔法使い専門の役所という風に考えてくれればいいだろう。
さまざまな魔法を管轄・情報を統合しているので、ボレロの手がかりくらいはつかめるかもしれないのだが、
前文で述べたとおり5時で一般受付が終了するので、今日はもう手の打ちようがない。
「いよっし!だったらいっそこのままこの町をオサラバしちゃお!」
そう、いつ追手(学校の先生)がくるのかわからないのだ。
一日ちんたら待っている暇なぞ、彼女にはない。
ならば一刻でも早く行方を完璧にくらましてしまうに限る。
リズは結論と自分のするべき行動を出すと、早速目的地に向けて歩き出す。



その方向は、『馬車乗合所』
さまざまな地方にさまざまな時間帯でさまざまなランクの馬車を取りまとめる、チケット制の乗り合わせ場所。
個人で予約を取るよりもはるかに安価で、時間もかからないため、利用者は多い。



「さて、アタシの旅の第一歩が始まるのね…!」
そういったリズの目の前にある建物の看板には、『馬車乗合所』という看板がかかっていた。
リズはその扉を迷いなく開け、中に入る。
中は、大きなカウンターが一つと、案内嬢が二人。周囲は広くもなく、狭くもない。
所狭しと時刻表と値段表が張られており、室内には待ち合わせ用のいくつものベンチが見える。
時間帯が時間帯だからだろうか、そのベンチにはほとんど人はいない。
リズは真っ直ぐカウンターにいる案内嬢に向かって話しかけた。
「すいませーん、あの、30分以内に出る夜行馬車で一番遠くまで行く便はなんですか?」
「でしたら、王都イシュラント行きの便がございますけれど…?」
リズの質問に対して、案内嬢の表情がいぶかしげなモノに変わる。
そりゃ、見た目16そこらの女の子がまるで家出をするような荷物を引っさげ、いきなり一番遠くまで行く便なんて聞かれれば、誰だってそうだろう。
しかも、30分以内、と早い出発時間まで指定してだ。しかし今は職務中。案内嬢はマニュアルに従い、案内を進めていく。
「あー、じゃ、それでいいわ。値段はいくらですか?」
「ランクCで5,000ノートになります。」
「うっ…ちょ、高っ…」
案内嬢の提示した金額に、リズは一瞬ためらう。もともと無駄遣いの激しかったリズは、ありったけの金を持ってきたとはいえ、手持ちはギリギリだ。
今この金額をだせば、後の宿代くらいしかない。
馬車のランクを下げればいいのだが、Cは一般ランクといわれており、その下になると本当に大量の荷物と相乗りになる事になる。
もちろん、乗り心地は決していいものではなく、うららかな乙女には耐え難い代償だ。
「……おねーさん、ちょーっとだけ、値引きとかしてくんない?」
「無理です。お値段のほうは組合で管理されておりますので」
リズのお願いをばっさりと切り捨てる案内嬢。
リズが恨めしそうに見つめてみても、彼女の営業スマイルは微塵もゆがまない。
「うう、わかったわ。払いますー…」
財布を取り出し、銀貨を5枚取り出し案内嬢の前におく。
「ありがとうございます。こちらは乗合いチケットになります。
 乗車と下車の時に確認させていただきますので、なくさぬようにお持ちください」
代金を受け取り、案内嬢は少し分厚い長方形の紙をリズに差し出す。
リズはそれを受け取ると、自分の乗る馬車だけ確認をすると、大事そうに財布の中へとしまいこむ。
「まーったく、ちょっとくらい引いてくれたっていいじゃない、けちー…」
そうぶつくさとつぶやきながら、リズは出入り口になっている扉をくぐる。
案内嬢が後ろから『それでは良い旅を』と決まり文句を言ってきたが、何か馬鹿にされているようでちょっぴり癪に障る。
……ちなみに、この組合。学生割引という行為もしていたのだが、リズは全く気がつかなかったとか。



発車三十分前を過ぎているということもあり、既に乗車は始まっていた。リズはトランクを抱え馬車に乗る。
王都までの直行便ということもあって大型の馬車で、人もそれなりに乗っている。
リズはチケットと座席表を照らし合わせ…自分に割り当てられた席へつく。
ちょうど中央付近の通路側の席だった。その隣…窓側の席には既に乗客が座っていた。
赤い髪の小柄な少女で、リズとさして変わらない年齢のように見える。が、リズに比べれば格段に軽装である。
少し大きめのザックの上に上着を置き、足を組んで鉛筆を片手に雑誌をめくっている。リズが軽く会釈をすると、
彼女はリズに小さく頭を下げて再び雑誌へと視線を戻した。
リズは邪魔にならないようにトランクを床に置き、座席に座った。あまりいい席ではないので椅子が固い。
しかし贅沢は言っていられないのでそのまま座り、周囲をきょろきょろと探る。
…今のところ、リズの追っ手(主として両親と学校の先生)はここにはいないらしい。マントのフードを目深にかぶり、じっとうつむいたままにする。
正直暑いが、ここでマントを脱ぐと追っ手がやってきたときにすぐ見つかってしまいそうだったので我慢する。
時間は過ぎ……馬車が動き出した。座席は若干空きがある。リズはもう一度念入りに周囲が知らない人間ばかりなのを確認すると、マントを脱いだ。
「…ふはーー……」
思わず大きなため息がこぼれてしまい……すると隣に座っていた少女がくすくすと笑いだした。
「もー、笑わないでよー」
リズは相手が見ず知らずの人間だということも忘れて友達のように抗議した。
「や、ごめんごめん。暑いのになんでずっとマント着てるんだろーって不思議に思ってたんだよねー」
少女の方もかなりくだけた態度で話しはじめた。
「うん…ちょっとナイショの旅……なんだ。とりあえず、王都まで行ってみようと思って」
「ふぅん。それなら夜行馬車は安上がりでいいよね。あたしは出張の帰りなんだけど…ケチられて夜行馬車なんだよねー。下っ端はつらいわ」
少女は苦笑しながら頭を掻いた。…にしても、こんな少女が「出張」とはどういうことだろう。リズは小首を傾げた。
「あなた…出張?」
「うん。これでも一応社会の一員として日々労働力を提供してんのよ。
 …あ、あたしはイスト=ディンブラ。疑ってそうだから断っとくけど、一応20歳だからね?」
「あ、アタシはリズ……リズ=ファシル。16歳……」
まさか四つも年上だとは思わなかった。リズが目を白黒させていると、イストは眉を少しだけ吊り上げる…が、その後すぐに笑顔になった。
「ま、いつものことだけどねー。ひどいときは“年齢詐称”とか言われるときあるしー」
「そ、そうなんだ……」
いまだにイストが自分より年上だと信じられないリズは少し遠い目をしたまま答えたのだった。
 それからしばらくリズとイストは会話をしていたのだが、室内の照明が落とされたこともあって休息を取ることにした。
イストは上着をかぶることもなく…程なくして眠ったようだ。一方のリズは興奮してとても眠れそうにない。
なにせ、勢いのまま飛び出してきた上初めての冒険である。初めての冒険にしては目的が壮大すぎるのだが。
しかし眠っておかねば後がつらい…と思ったので、空の彼方にある眠気を呼び寄せようとマントを肩にかけ、目を閉じた。
 それから、どのくらいが経過しただろうか……
ふいに、馬車が停まった。
「あああれ…?もう着いたの……?」
いつの間にかリズのもとにも眠気はやってきていたらしい。
リズは目をこすりながら上体をしゃんと起こす。一方イストはのんびりと眠りから覚めていない声で
「多分運転手の交代じゃないかな…」
と返してきた。そういえば昔王都へ向かったときは街道沿いに点在する休憩所のひとつで馬に餌を与えたり御者が交代したりしていた。
今回もそうなのだろう…とリズは周囲を見回して……珍しく、おかしい。と思った。
「イスト、変だよ。辺り、真っ暗だ……」
休憩所であれば照明があってもおかしくないはずだ。
リズのその言葉に、イストが体を起こしたのを気配で感じた。イストはごそごそと何かをしているが、暗いので全く見えない。
ややあって、イストが立ち上がったのがわかった。
「リズ、あたしちょっと外見てくるわ」
「え!?」
リズが目を白黒させている間にイストはリズの前をすり抜け、入り口の方へ向かう。
「ま、待ってよアタシも……」
リズも続いてトランクを持ってついていこうとしたのだが……
「動くな」
上からくぐもった男の声が降ってきた。それと同時に、腕を誰かに掴まれ、引きずり立たされた。
(な、な、なにどういうこと……!?)
そのままリズは誰かによって荷物と一緒に車外に放り出された。
 外では小さな明かりがいくつかと、同じように車外に放り出された乗客が数名。リズの後からも次々放り出される。
小さな明かりは魔法の光、微細光という陽元素の初歩魔法で、自分の三歩周囲を活動するのに支障のない程度明るくすることができる。
このくらいであれば小さな子どもでも習得している魔法だ。そんな明かりのひとつがリズのところに近づいてきた。それはイストだった。
「リズ、大丈夫!?」
「な、なんとか……」
リズはイストに助け起こされて立ち上がった。周囲の人間も何が起こったのかよくわかっていないようだった。
口々にうめき声めいたものをあげながら立ち上がり……誰かが素っ頓狂な声を上げた。
なんと、馬車が乗客を放置したまま走り始めたのだ。周囲の人間から悲鳴があがる。
リズはたまたまトランクを抱えたところを放り出されたので荷物が手元にあったが、イストをはじめとするほとんどの乗客は荷物が車内に置き去りである。
「泥棒!」
その言葉に即座に反応したのはイストであった。イストは周囲の人間を踏まないように駆け出す。その直後……
馬車の車輪が爆発し、馬もろとも暗闇の中へ飲み込まれていった。
 ぽかんとするリズをはじめとする乗客乗員など目に入っていないのであろうイストは腰に手を当て、高らかに言い放つ。
「魔法使い倫理委員会、遵法局摘発課の目の前で盗みだなんて、いい度胸じゃない。天罰よ天罰!」
「けど……わしらの荷物は……?」
「ん?……あああああーーーーーっ!!!!」
真っ暗な闇の中にイストの悲鳴が木霊した。



 結局。
馬車を見つけるのに小一時間、そこから馬を助けたり盗賊たちを捕縛したり荷物を回収したり近くの休憩所まで移動したりで、
落ち着いたのは東の空がうすら明るくなってきた頃だった。
(マズいわ……)
なんと、イストは魔法使い倫理委員会の一員だったのだ。
出張帰りで王都行きの馬車に乗っていたところから察するに、イストはリズの住んでいる町の委員会の所属ではなさそうだが、
人の縁などどこで繋がっているかわかったものではない。
離れてしまっていれば捕まる可能性は下がるが、思わぬアクシデントに見舞われたおかげで予定の半分ほどしか進んでいない。
ちなみにイストは捕縛した盗賊を尋問したり、乗務員や休憩所に詰めている者と会話をしている。
その会話を盗み聞きしたところ、どうやらここから街道を歩いて数時間のところに街があるらしい。街道は整備された一本道だから迷うこともないだろう。
よし。リズは腹をくくり、マントを着て他の人間に気付かれないようにそっと集団から離れて歩き始めたのだった……
進む→


Designed by chocoto