--イシュネー王国-- 6話

そして、翌日。
「うー…ねむいぃぃぃぃ……」
だー!今日もかーーー!!
スイレンのことをあれこれ想像していたおかげで思ったほども眠れなかったリズは今日も半分顔が寝ていた。
ブロウに揺さぶられるが、リズは生返事をするばかり。目が糸のようにどんどん細くなっていく。
「…今日はこの分だと無理だな。進むのは諦めて、ひと稼ぎするか」
イレイスがため息交じりに提案した。
「……そーだな。村長のとこにでも行けば何か聞けるかもしれないな。スイレンはどうする?」
「わたしは村の周囲の森で採集でもします。薬草や食べられる物の種をとっておけば後々役に立つでしょうし。
 それにリズさんを全くのひとりにしてしまうのも心配ですしね」
「ああ、そうだな。じゃあ、私たちは夕方までひと稼ぎしてくるとしよう。リズのことは任せた」
スイレンはブロウとイレイスを見送った後、リズに肩を貸してやりながら村外れの森までやってきた。この辺りなら特に危険もなさそうだ。
リズを大きな木の根元にもたれかからせ、マントをかけてやったスイレンは、感覚を研ぎ澄ませて周囲を見渡すのだった。



「……さて、どうしようかね。」
リズとスイレンと別れてイレイスが第一声を発する。
「どうしようか、って、何が?村長の所とか行かないのか?」
「いや、この辺は街道も出来ているし、人通りも多い。オマケにこの辺徒歩で歩いてきている奴なんて金がありませんって言っているようなものだろう。」
「……だから?」
イレイスの意図しようとしている所がまったくよめず、ブロウは素直に首をかしげる。そんなブロウに、イレイスはわざとらしくため息をついてみせた。
「この辺に魔物獣盗賊その他、出たとしてもそこらの旅人が二つ返事で駆除できる。しかも頻繁に仕事なんかないだろうな。
 斡旋所のような場所もないところを見ると、一目瞭然だ。」
「……ぇ、じゃ、稼げないっていうのか?どーすんだよ。」
ブロウが困ったようにうろたえる。だが、イレイスはそんなブロウをよそに冷静に言い放つのだった。
「誰が稼げないって言った?」
「へ?」

…お前、熱いのと冷たいの、どっちが好きだっけ?

イレイスの言葉に、一瞬だけブロウは嫌な予感を覚える。
なぜならば、そう言ったイレイスの顔はとてもとても笑顔だったから。



村の中心、少しだけ開けた場所にて、ちょっとした人だかりが出来ていた。その人だかりは、年齢、がバラバラで老若男女が集合しているといっても、過言ではない。しかも、ただの村人からちょっと腕の立ちそうな旅人まで実に様々だ。
その中心にいるのは、二人の青年。真っ白な衣服を身に着けた人物と、真っ黒な衣服を身に着けた青年だった。
「さー、魔法使いイレイスの大製品、青のリストバンドと赤のリストバンド、発売中ですよ〜。」
にっこりと営業スマイルを浮かべて接客をしているのはイレイス。
その腕には、真っ赤なリストバンドと蒼のリストバンドが両腕に片方づつついていた。
「このリストバンド、デザインこそ少しダサいけれども、なんと魔法効果が付属しております!」
そこ言っちゃうのかよ、と隣でブロウはイレイスのセールストークに思わず突っ込みを入れたくなる。
しかし、そこで突っ込みを入れると後で何されるのかわからないので硬く口をとざしておくが。
「では、どのような効果か早速試してみましょうか♪」
イレイスはそういうと、白いテーブルから2・3歩進む。
「じゃあ、助っ人の黒い人、ちょっと私と対面するように立ってくれるかな?」
イレイスがブロウの立つべき場所を指で指す。ブロウは瞬間、自分が一体何をされるのか理解すると同時に、イレイスの質問さえも瞬時に理解した。
なので思わず、白いテーブルから動くのをためらってしまう。
「…………それってつまり、」
いいから早く立て?
無敵スマイルで死刑宣告。
ブロウはしぶしぶイレイスに逆らうのも無駄だとわかっているので、言われたとおりに立つ。
「使い方は凄く簡単。こうして、自分の出したい分量を頭の中でイメージして、それから腕を前に突き出しまーす。」
イレイスは言いながら、蒼のリストバンドをした方をブロウの方に突き出す。
「あ、ちょっと後ろの方離れてください、危ないですよー。」
人ごみが、僅かに後ろに下がる。もうブロウは、諦めたような表情で立ったままで居るしかなかった。
水よ、全てを押し流せッ!
そうイレイスが言った瞬間、腕にしている青のリストバンドが淡く光り、イレイスの突き出したほうの手の中に拳より少し大きいくらいの水球が生まれる。
「ちょ、いきなりそんな魔法使うなーっ!」
ブロウが避けようとするが、自分の後ろに居る人に当たるな、と思ってしまったが最後。一瞬ためらった間に魔法は完成し、水球はびゅ、という音と共にブロウの方にすっとんだ。
ばしゃん、という強力な水鉄砲がブロウにはじけた。
「ぷわっ!つ、冷てッ!!」
ブロウが悲鳴のような声を上げると同時に、観客はおお、と感嘆の声を上げる。
「もちろん、このアイテム、どんな方でも使用できる優しい設計となっております。あ、そこの男の子、ちょっとこっち来て試してみてくれないかなー?」
びしょぬれになってしまったブロウを見てみぬふりで、イレイスはドンドン話を進めていく。
呼ばれた男の子も、一連の行動を見ていて楽しそうだと思っていたのかすぐにこっちに来た。
「あーはい、じゃ、これ嵌めてみてー、うん、両手。」
男の子はイレイスが外したリストバンドを先ほどのイレイス同様に片腕に一つずつ嵌める。
「じゃ、アレがマト。炎と水のイメージでやってみて。
 うん、なるべく水を多めに。そうそう、火傷するかしないかの瀬戸際、むしろちょっと熱いくらいで大丈夫。
「マトってなんだ、マトって!!しかもなんだそれ、なにやる気だーッ!!」
鮮明に想像できるのだが、思わずブロウは叫んでいた。一番初めの質問関係なかった、なんてどこか外れた事を考えながら。
「何ってそりゃお前、お湯を作ってお前にぶつけようとしているだけだが。」
「ですよねー……とか、言うと思ったかこのクソ兄…」
流石にブロウも生命の危機を感じたのか、一歩を踏み出す。
「呪文は『水よ全てを押し流せ。』あぁ、大丈夫大丈夫、彼はヘタレだから避けないよ。」
み、水よ全てを押し流せー!!
イレイスはブロウが踏み出すのと同時に、男の子に指示を出す。
男の子は向かってくるブロウを迎え撃つように、両手を突き出して呪文を唱えた。今度よりも勢いよく、ブロウに一直線で強力な水鉄砲が打ち出される。
だが、忘れないでほしい。
前回はただの水鉄砲でしかなかったが、今回の中身は熱湯だ
ぶわぁっ熱あーっ!!!
推測68℃のお湯をまともに喰らい、ごろごろとその場にもがき苦しみ転がるブロウ。いくら服に防護魔法がかかっていようが、直前に冷たい水を被っていようが、熱いものは熱い。ギャラリーもそれを見ていたのか、どよめきの声が上がる。まぁ、主に不運な黒い彼の勇気をたたえるものだったが。
「ありがとう、幼いボク。もう戻っていいよー。」
男の子は、イレイスにリストバンドを返すと、とてとてと親の方へと戻っていく。イレイスもそれを見送りつつ、白いテーブルの方へと戻っていった。
ブロウは地面に力尽きたように転がっているが。完全に放置。
「……さて、皆さん、子供でも使える魔法道具、赤と蒼のリストバンド。魔法は一種類しか使用できませんが、擦り切れるまで使用可能ですよ。値段は一つ
 1800ノート。二つセットで3000ノートと大変お買い得になっております。今日死んだ彼のために、どうか慰みとして買ってやってくださいませ。」
イレイスがすこしだけ憂いを帯びた表情で締めくくった。
民衆は少しだけ悩んだ後、財布を次々に取り出し、イレイスのほうへと駆けていく。ある者はお悔やみの台詞と共に、そしてある者は涙を浮かべながら。
そんな喧騒じみたモノを冷たい地面の上で転がっていたブロウは地獄からの使いのような低い声で小さく呟く。
……まだ、死んでねぇよ………


さて、時間というものはあっという間に過ぎるようで。
二人がリストバンドを完全に売りさばいた頃には、空は真っ赤に染まっていた。


さて、翌日……
「さーて、今日はきりきり進みましょーぉ!」
昨日たっぷり眠ったリズはようやく本調子を取り戻したようだ。無理もない、ここまでほとんど休むこともなく慣れない旅をしてきたのだ。
体調を崩して寝込む方がよほど面倒だ。
「……ぶぇっくしっ!!」
「……大丈夫ですか?ブロウさん……」
大きく背伸びをするリズの背後でブロウが大きなくしゃみをした。
鼻をすするブロウのことをスイレンが心配そうに見上げる。そんな2人をイレイスが追い越していく。
「心配しなくても、そいつは丈夫なだけが取り得だ。あのくらいではどうということはない」
「ブロウさん、もし具合が悪ければいつでも仰ってくださいね?お休み入れますから」
「あ、あぁ…ありがとうスイレン」
今のところ、リズが寝込むよりブロウが寝込む方を心配しなければならないだろうか…
ちなみに、昨日スイレンは薬草や種子類を採取した。薬草は負傷だけでなく、体調がすぐれない時の症状の緩和に効果がある。
また、種子類はスイレンの魔法を使えばあっという間に成長させることができる。村の近くで採取したものなのでさして珍しいものでもなく…
つまり、即金は期待できなかったが、今後有用だと考えたのだ。午後からはリズが手伝ってくれたのでスイレンが予定していた以上の量を集めることができた。しかも、イレイスとブロウが体を張って稼いでくれたおかげで中継地あたりから馬車を利用することができそうだ。1日足止めをくらったが、状況はそう悪くはない。
ただ、空はどんよりと灰色の雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうだった。なんとなくだが、嫌なことが起こりそうだと思ってしまう。
さて、そんな誰かの心配とは裏腹に、行程は順調を極めた。リズが途中で音を上げることもなければ、ブロウが体調を悪化させることもなく…
リズの腹時計が正午を知らせたので休憩を入れることにした。大掛かりな食事の準備はできないので、簡単な携帯食で昼食を済ませることにする。
「うーん、こういうのもピクニック気分で楽しいんだけどぉー、やっぱりちゃんとしたごはんが食べたいなぁ〜」
「贅沢言うなよ…へぶしっ!」
「ブロウさん、あまり調子良くないみたいですね。食事が終わったら薬湯を作りますから飲んでくださいね」
「誰かに噂されているだけだろう?」
「案外そうかもね〜」
イレイスの鋭いツッコミにきゃらきゃらとリズが乗じる。ブロウは口の中で色々呟いていたようだが、食事に専念することを決めたようだ。
と、そんなとき…イレイスが食事をやめ、周囲の音を探るような恰好をした。
「どしたの?」
「…何か来るぞ」
イレイスの押し殺した声に、スイレンとブロウが頷いた。スイレンは杖を胸の前で握り、ブロウは剣に手をかける。
程なくしてスイレンの背後の茂みが揺れ、小汚い恰好の人間が出てきた。くたびれた鎧や剣を身につけているところから察するに、冒険者崩れか何かのようである。ただ、目に宿った光が異常だ。必要以上にぎらぎらと輝き、浅く早い呼吸をしている。人間というよりむしろ獣のようだった。リズは出かけた悲鳴を必死で押し戻した。
「ブロウ、牽制」
「了解!」
出てきた人間が獣じみた咆哮をあげてこちらに襲い掛かってくるのと、イレイスの指示でブロウが飛び出したのはほぼ同時だった。
相手は剣を携えているにも関わらず素手で攻撃してきたので、ブロウは鞘をつけたままの剣で防ぐ。
……基本的に、たとえ冒険者でも人間を斬れば罪に問われる。この場合、襲われた方が圧倒的に不利なのだが……
「さて、今日はどれを試そうか……」
イレイスはブロウと襲撃者が鍔競り合いを繰り広げているにも関わらず、倒木に腰掛けたまま本をぱらぱらとめくっている。
対人間の戦い方は魔法で昏倒・捕縛するのが基本。スイレンがはらはらしながらイレイスに急ぐよう声をかけるが、イレイスは全く動じる様子はない。
リズは傍から見ていることしかできないが、なんとなくだがブロウが押されているようなかんじである。
「ちょ、兄貴、まだかよっ…!」
「いや、それがどうもこれ。というのがなくてな……うん、今日は気分が乗らないからやめた。ブロウ、適当にあしらっておけ」
「ちょーーーーーっ!?」
イレイスはぱたん、と音を立てて本を閉じると、昼食の続きをとり始めた。ブロウが悲痛な叫びを上げるがイレイスには関係ないらしい。涼しい顔をしてお茶を楽しんでいたりする。その直後、がきん!と嫌な音がした。鍔競り合いが崩れ、ブロウが地面に組み伏される。
スイレンが慌てて杖を構えなおし、元素を集める作業を始める。だが、そこから呪文を唱え魔法を放つよりも襲撃者が次なるターゲットに襲いかかる方が速い。襲撃者はリズを標的にした。…というよりも、リズの前にあった食事を目指し飛び掛った。
「リズっ!」
…っの、アタシのゴハンに触んなぁあああ!!

グシャッ……!

「……な、なんだか今、聞こえてはいけない音が聞こえたんですけど……」
「スイレンはエルフだから耳が良いんだろう?」
ふるふる。と小さく首を振りながら呟いたスイレンの言葉を、さらりとイレイスが否定した。
「なあ、こいつ……わき腹がえぐれてるように見えんだけど……」
「それはこいつが異常に肉がついていないからだろう?」
かたかた。と小さく震えながら尋ねたブロウの言葉を、さらりとイレイスが否定した。
いやぁあああ!!!!臭い汁が服に飛んだああああああ!!!
少し離れたところで、リズが絶叫していた。
藪の中から出てきた襲撃者は、どうやらゾンビだったらしい。リズの渾身の一撃をくらってそのまま動かなくなった。
どうりで、剣を身につけていても使わないし動きが獣っぽかったはずだ。やれやれ納得納得。これなら傷害罪にも殺人罪にもあたらない。
「じゃ、ないでしょう!」
「スイレンはついにナレーションにツッコむという高等技術を身につけられたのか。感心だな」
「……そうではありませんよ!こんな昼間から異形に襲われるということは、何か原因があるはずです。調べておいた方がいいんじゃないですか?」
「ゾンビ素手で殴っちゃたよおおお!もうお嫁に行けない!!」
「…っへぶしっ!!」
イレイスはぎゃあぎゃあ騒ぐリズとまたくしゃみをするブロウを眺め……
「ゾンビの件は地元住民がなんとかするだろうさ。まあせいぜい、近隣の村に注意するように呼びかける程度だろう。…最も、相手が信じれば。の話だが」
軽く肩を竦めるとリズとブロウを促し歩き始めた。スイレンは動かなくなったゾンビを見下ろし……表情をゆがめて、イレイスの後を追った。
「……ところで兄貴、最近また俺の扱い酷くなってないか?」
後ろに続くブロウがぽつり、ともらした。イレイスは肩をひょいとすくめて一言。
偉人は言うだろう?初心忘れるべからず、とな。
イレイスの答えに、そんな初心など捨ててしまえ、とブロウは思ったとか。



さらに数時間ほど街道を進んでいく。
昼時にゾンビが出たことこそ気になったものの、それ以外はたいした事は起こらなかった。
強いて言うならば、ゾンビを殴ってしまったことに対してリズがいつまでもぐずっていたことくらいだろうか。
太陽が傾き、やがて山の向こう側へと完全に姿を隠してしまった頃になり、一向は足を止めるのだった。
「―…本当、後目と鼻の先なんですけれどね。」
スイレンが、地図を片手にうなる。指した指は、街が記してある所の本当に手前だ。
だが、それでも結構距離は離れているらしく、街道の先には一切それらしいものは見えない。
「ぇー、だったら歩こうよ。アタシ、このまま野宿とかホントヤダなんだけど。」
ぶー、とほほを膨らませるリズに対し、ブロウがなだめに入る。
「あのなぁ。一応夜歩くのは最低限控えた方がいいんだぞ?幾ら街道とはいえ、獣の類が出るとは限らないんだ。」
「それに、迷うしな。主にお前が。っていうか、お前だけが。」
「…………。うるせぇーよ……。」
ブロウの台詞にイレイスが皮肉を付け加える。しかし事実であることは覆せないので、ブロウはぐうの音も出せない。
「ぇ、ブロウが迷うって―…もしかして、方向音痴?」
「ああ、そんなに酷くはないがね。だが、前に山に入って30分とたたず姿が見えなくなったときは流石にどうしようかと思ったが。
 もちろん、今後の扱い的な的な意味で。」
いかにも見せ付けるようにイレイスがため息をつく。ブロウは小馬鹿にしたような態度のイレイスに対し、言い訳のような言葉を吐く。
「いいだろー、それ見越して待ち合わせ場所決めてたんだしさ。オマケにリズにも会えたし。」
「アタシにも会えた…って、もしかして…」
ブロウの言葉に、リズはつい2・3日ほど前の記憶をあさる。そう、夜行馬車から逃げ出し、道で行き倒れギリギリの所をブロウに助けてもらったのだ。
同じ馬車にも乗ってなかったし、何処から来たのか謎のままだったが、単純に迷子だったようだ。
「うっわー…ちょっと知りたくなかったかもー…」
がらがらとちょっとしたドリームが崩れる音が聞こえ出したリズ。思わずブロウをちょっと幻滅した目で見てしまう。
そりゃあ、果てしなく優しいし、リズにとっても頼れる人間なんだが、意外にトボケているようだ。
「な、なんだよ、そんな目で見んなよ……っくしっ!」
そういって鼻をすするブロウは、やはりなんとなく情けなかった。
「あのー…すいません、焚き木拾うの、手伝ってくれません?」
少しだけ声をかけづらそうに、スイレンが話しかけてくる。その手には、結構な量の焚き木が抱えられていた。
「あ、悪ぃ!すぐに手伝うよ!」
そういって、ブロウはすぐにスイレンと同じように周囲の焚き火に使えそうな木を集めだす。
「アタシも手伝う!」
すぐにリズも同じように焚き木を集めだした。
「頑張れ若者。私は疲れたんで魔法の生成でもしておこうかね。」
はは、とイレイスは軽く笑ってスイレンがあらかじめ集めた焚き木を纏めると、一部を分ける。
そして、適当な場所に座り込み、指をパチリと一度だけ鳴らす。すると、金属片が割れるような独特の着火音と共に、少量の木々に火がともった。
「…兄貴、ちょっとは手伝えよ。」
ブロウはそこから一切動こうとしないイレイスに呟くように言った。そういって聞くような人間ではないとわかっていたので、半分以上諦めの精神だが。


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