--ラぜラル王国-- 7話
さて、翌日……目標を失ったリズ、再出発の日。
「で、結局どうするんだ?」
イレイスに尋ねられ、リズは振り返った。
「まあ…当初目的で選ばなかった方へ行くっていうのが妥当かな。って思うんだ。
だからとりあえず、ケールスまで戻ろうよ。ケールスならスナ王国にも行けるでしょ?」
「まあ、そうなるな」
「そしたら、スナ王国に寄ってごちそう……にゃはははは」
「…目的ずれてんぞ?」
にまにま笑うリズのことを、ブロウがあきれた目で見やった。
「でしたら…お願いをしてもよろしいですか?」
いきなり声をかけられ、3人は振り返る。
そこには、ブロウやイレイスと同じくらいか少し年上の女性が立っていた。
紺色の長い髪に、落ち着いた赤いフレームの眼鏡をかけた、気弱そうなかんじがする人物だ。
とりたてて美人でも不細工でもなく、特徴といえばイストと同じジャケット…魔法使い倫理委員会の制服を着ていた。
「私はニミュエ=オーランドと申します、魔法使い倫理委員会に所属する者です。
実は出張でこの町に来ていたのですが、仕事も終わりましたのでイシュラントに戻るところなのですが……
ここのところ何かと物騒だと聞いていまして、差し支えなければシュトーレンまで護衛をお願いしたいと思いまして」
と、ニミュエなる人物はぺこりと頭を下げた。
「依頼か。となると当然報酬が発生する話だが…それは了解してもらえるのか?」
ブロウが何かを言いかけたのを制してイレイスが高慢な態度でニミュエに尋ねた。ニミュエは一瞬言いよどんだ後…
「もちろん、お支払いいたします。1日千ノート、シュトーレンの委員会支部にて支払い…ということになりますがよろしいですか?」
そこで、ブロウがイレイスの服の裾を引っ張った。そしてひそひそとイレイスに話しかける。
(兄貴!困ってる女性から金巻き上げんのかよ!)
(当然だろう?仕事として依頼されたら仕事として対価を求める。何がおかしい)
(いや、そうだけどさ…1日千ノートは取りすぎだろ!?)
(だけど向こうが言ってきた話じゃない?)
(リズは黙ってろ!)
(いいかブロウ、金は限りある資源だ。そして今はリズのおかげで懐は潤っているが、いつリズのせいで打撃を受けるかもわからん。
それに目的地へ向かう道中で金稼ぎができる。一石二鳥だとは思わないか)
(…否定はできないが……)
「あ、あのぅ…何か問題でもありましたか…?報酬の吊り上げはできたらやめてほしいんですが……委員会の規定もありますし……」
リズたちが長くひそひそ話を続けていたので、ニミュエは心配になったのだろう。おろおろと尋ねてきた。
「いや、引き受けさせてもらおう。私はイレイス、魔法使いだ。そしてこちらは剣士のブロウ、それから…おまけのリズ」
「おまけって何よぅ!!」
「…っ!……え、えぇ、よろしくお願いします……」
ニミュエは一瞬目を丸くしたが、そのままぺこぺことお辞儀をした。語尾がなんだか消え入りそうだ。と、リズは思ったのだった。
「では、このまま出発してもいいか?」
「はい、構いません。そちらの準備が整っていましたら、すぐにでもお願いします」
「ところで…“最近物騒”ってどういうことだ?冬が近いからフォレスグリズリーでも暴れてんのか?」
ブロウの質問に、ニミュエはまたおろおろし始めた。
(この人…イストとぜんぜん違うなあ……)
と、リズはニミュエを見ながらそんなことを思ったのだった。
「い、いえ!それもありますが…街道でならず者がたくさん出るようになっていまして……」
「そうだったの?アタシ全然会わなかったけどなぁ…」
「セツナやルートのおかげじゃねーの?」
「あ、なるほどねー。そういうことにしとくよー」
こうして、リズたちはニミュエという人物を加えて元来た道を戻ることになったのだった。
あぜ道を、歩き出して数分。おもむろにイレイスが口を開いた。
「……で。だ。リズ、宿題は出来上がったのか?」
「……完璧、ってわけじゃないけどね。一応」
リズの言葉に、イレイスがチッと舌打ちする。
「……やりたかったんだがな、罰ゲーム。」
ふう、とイレイスは憂鬱にため息さえついてみせる。おそらく、本気で言っているのだろう。間違いない。
「本当に兄貴は……もう、なんつーか言葉に出来ないよ……」
ブロウは、道中でのリズのがんばりを知っているだけに思わずため息が出る。
「え、えーっと…皆さん、何のお話でしょうか……?」
まったく話についていけなかったらしいニミュエがきょとんと首をかしげる。
「いや、別に。リズのがんばりに対しての話、かなー。」
「あ、そうなんですか……」
ブロウの言葉に、ニミュエはほっと胸をなでおろす。
「そーいえば、ニミュエって魔法使い倫理委員会の人なんだよね。イストのことも知ってんの?」
リズの質問に、ニミュエはいきなりびくりと肩を震わせた。
「いいい、イストさんですか?い、一応同期なので、知っていることには知ってますが……」
なぜか何処かがたがたとおびえたような表情を作るニミュエ。
流石の空気を読まないことにかけてはスキルが高いリズでも、これはピンときた。
「なーんだ。仲がいいならヨロシク言っておいて貰おうって思ったけど。」
「そ、それくらいでしたらなんとかお伝えいたします……」
そういって、ぺこー、と腰を低く頭を下げるニミュエ。なんとなく、その背中は疲れきったサラリーマンのような哀愁が漂っている、気がする。
「いやいや、それくらいで頭下げられても、アタシ困るし!」
「そーだそーだ。リズなんかに頭を下げていると知ったら、親御さんが泣くぞ?」
「どーいう意味よ、イレイス!」
「ただ、あるがままの意味だが。」
と、まあこんな感じで道中談笑を加えつつそこそこ賑やかに進んでいったのだった。進むというか、戻るといったほうがいいのかは謎のままだが。
数日間ほど、ニミュエの言ったようなならず者、には出くわすことがなかった。
しかし、主人公補正というものは恐ろしいもので、事件はいつでもおきるものである。
それは、道中を半分ほど進んだときであった。
「さてブロウ、問題だ。何人隠れてるでしょうか?」
先頭を歩いていたイレイスが、同じように隣を歩いていたブロウにそんな問いかけをだした。
視線は、ずっと先のほうをさしている。ちなみに、リズとニミュエの二人はすぐ後ろで会話をしていた。
……というか、一方的にリズがしゃべっているだけのように聞こえるのだが。
「……左の茂みに1人。その奥にもう二人。右前方木の上に手前と奥で一人づつ。」
だが、ブロウもなれたものでイレイスの言葉に言いよどむことなく答える。
「悩むな。先手を打つか待ち構えるか。」
まず、こちらに襲ってくる意思があるかどうかだ。高そうな身なりでもなければ、商人でもないただの旅人を襲い掛かるのはローリターンだ。
もうひとつ、後ろの二人組の存在。ブロウと二人だけならば少しからかって遊ぶのもいいのだが、リズはぶっちゃけ使えない。
ニミュエも魔法使い倫理委員会とはいえ、あまり実戦慣れはしていなさそうだ。
「うーん、驚かしてみるとか?意外とびっくりして逃げてくれるかも。」
「ふむ、威嚇か。お前にしては珍しく有意義な案じゃないか。」
「……ほめられた気がしねえ……」
「ははは、好意は素直に受け取れよ。」
そういって、イレイスは、ぱたりと足を止める。もちろん、ブロウも足を止めた。
「ど、どしたの?二人とも足を止めて?」
リズが前回の熊のときで学習したのか、きょろきょろと周囲を見始める。
イレイスは、何も答えずに、ブロウが最初に指した二本の木を、にやりと笑みを浮かべながら詠唱を始める。
「……風よ、我は願う、我らが敵を切り払う一振りの刃とならんことを!『ブレイド・スラスト』!」
イレイスの手から生み出されていくのは強大な力を持つ不可視の刃。
「ちょちょちょ、い、イレイスさぁん!?」
イレイスの使う魔法に心当たりがったのか、ニミュエがわたわたとあわてたような声を上げる。
「そーれ、とんでけー。」
しかしイレイスはその刃を木々に向かってはなった。しかも台詞的に、ノリが軽ぅい。
直後、不可視の刃はその2本の木の根元にぶつかり、炸裂。
瞬間、木々は根元からぱっくりと折れ、無残にも倒れてくる。……その中に、妙な悲鳴が聞こえてきたのは、きっと気のせいではないだろう。
程なくして、倒れた木の中から2人の男が立ち上がった。
「ったく、なんなんだよ……!!」
「根元から折れるなんて聞いてねえよ……」
彼らはこちらには気づいていないのか、仲間内で堂々と会話している。潜伏者としてはえらくのんびりとした連中である。
ちなみに彼らは簡単な金属鎧の上から厚手のコートを着込み、そのコートには木の葉や土がくっついている。
それらが今の出来事でついたものなのか、もともと付着させていたものなのかはわからない。
ただ言えることは、彼らはけして堅気の者ではない。ということだ。
「いい…イレイスさん!!今の魔法の使い方ですがっ!!人を傷つけるものではありませんか!!そんなものを人に向けて使ってはい、いけませんっ!!」
「何を言う。私は木を倒して休憩場所を作ろうと思っただけだが?そこに人が居るなど、お前はわかっていたのか?」
「…い、いいえ……わかりませんでしたけど……」
(うーわー…それ絶対後付けだよねー……)
イレイスのこじつけもいいところの言い訳に対し、ニミュエはおろおろするばかり。なんとなくだが、ニミュエを見ていると誰かを思い出してならない……と、リズは思った。しかし誰だったか……は思い出せなかったが。
「お前ら何ぼうっとしている!!バレバレだろうがっ!!」
鋭い声がして、茂みから1人の男が立ち上がった。
「…お前もな」
ブロウが呆れたように呟き、そのくせ素早い動作で茂みから立ち上がった背後の男の背中に回り、そのまま剣を男の背中につきつける。
どこまでどんくさい連中なのか。さすがのリズも開いた口がふさがらなかった。
「あっ!お前ら卑怯だぞ!!」
「しかし人数ならこちらの方が上だぞ!!」
木から落ちてきた男たちは大型のナイフを構え、ブロウを威嚇するが…
「こいつの命が惜しいなら武器を捨てな。隠れてるヤツらもだ」
人質をとったこちらの方が有利だった。木から落ちてきた男たちは武器を捨て、奥の茂みに隠れていた男2人が立ち上がって両手を頭上に上げた。
そしてイレイスが武器に風の魔法をかけた。それは局地的に大気圧を上げるもので、捨てられた武器は重みを受けて地面にわずかながらめり込んだ。
これなら武器を手にしようにも大気圧でつぶされるか、運良く免れても武器が重くて持ち上がらないだろう。
イレイスはそのまま男たちにひと所に集まるように指示し、男たちは素直に従った。イレイスは更に男たちに拘束の魔法をかけた。
ブロウとイレイスは「情報収集をする」と言い、リズとニミュエを追い払った。というわけで、リズとニミュエは少し離れたところで休憩することになった。
ニミュエはきょろきょろと周囲を見回した後、先ほどイレイスが作り出した倒木に腰掛けた。リズもニミュエの隣に腰掛ける。
「ううう…お役に立てなくてすいません……」
「だから護衛を雇ったんでしょ?」
「ううう、まったくもってそのとおりです……」
「アタシよくわかんないんだけどさー、イストはもっとこう、盗賊に向かって魔法ぶちかますくらい激しかったけど……
ニミュエさんってそういうのしないの?」
仮にここに居るのがニミュエではなくイストであれば、「正義の鉄槌!天罰−っ!」などと高らかに叫びながら男たちに魔法のひとつやふたつお見舞いしているだろう。とリズは思った。
「イストさんはそんなことされてたんですか……?」
「あ、い、いや今のなしなし!!ものの例え!!!」
リズの言葉を聞いたニミュエの行動が、腹の底から響くような低い声になって体がゆぅらりとぶれたのでリズは危険を察知し、あわてて否定した。
するとニミュエはまたおびえたようにおろおろしながら…はぁ、とため息をついた。
「でも、イストさんの所属する部署は“遵法局摘発部”と言って、魔法を使って悪いことをする人たちを捕らえて処罰するところなんです。
その中でもイストさんは犯罪者逮捕の仕事をされていますから、魔法を使った実戦もされますし、調査のための魔法も幅広く使われます。
でも私が所属するのは“資格局試験部”と言い、魔法使いの資格を認めて認定証を発行する部署ですから、魔法はほとんど使わなくてもいいんですよね。」
「魔法使い倫理委員会ってのも、色々あるんだねぇ……」
確かに、それなら机仕事の方が多そうだ。しかしニミュエには向いていそうだとリズは思った。ついでに、社会に出るって大変なんだな…とも思った。
「それに……まさかこんな再会もあるんだと思うと……」
「どゆこと?」
リズが尋ねると、ニミュエはまたため息をついた後……離れたところで何か話し合いをしているブロウとイレイスを見やり……声を小さくした。
「実は…イレイスさん……あの白い方と私、高等魔法専門学校で同期だったことがあるんです。
あちらは覚えてらっしゃらないようですが……もう、そのときのことを思い出すだけで……」
ニミュエは青白い顔をしてぶるぶると震えだすので、リズはなんだか気の毒になってその話題を打ち切ることにした。
ニミュエにとってイレイスの存在はよほどのトラウマらしい。
何があったのかは気になるが、これ以上聞こうとすればニミュエはストレスで死んでしまうのではないかと心配になったのだった。
「あああ、どうかどうかこのまま……」
「“このまま”?」
「ヒィィィィっ!?」
“情報収集”を終えたイレイスがいきなりリズとニミュエの会話に入ってきた。するとニミュエは奇声を上げて数メートル向こうの立ち木までダッシュし、木の陰からがたがた震えながらこちらの様子を伺っている。その様子にブロウはぽかんとしていた。
「…どしたんだ?」
「……そっとしといてあげて。多分それが一番いいと思う……」
リズは小さく首を横に振った。
「ま、それはさておき…おかげでなかなか面白い情報が手に入ったぞ」
イレイスは何故かニミュエの方をむいてにやり、と笑った。かわいそうに、ニミュエは蒼白な顔でおろおろしている。
「連中はここを通る予定のシェンド伯を襲撃するつもりで待機してたんだとさ」
「えぇー!?それ、とんでもない話だねー!…だけど、なんで?」
「知るか。あいつらは下っ端、たいそうな理由どころか依頼主の名前だって知らなかったんだぜ?」
「まあ、推測の域を出るわけではないが……“七伯領国”の特性を利用して実権を握ってやろうという魂胆の人間でも居るんだろうさ」
イレイスがそう言ったが……残念ながらリズには政治的駆け引きなどよく理解できなかった。
「けど、だとしたら…アタシたちはこれからどうするの?あいつらをどこかにしょっぴいたりするの?」
「そこまでする義理はないだろう。というか、置いておいても誰かしらが見つけるだろうし」
「まあ、悪さできないように束縛したままにしてあるし…街道だから、誰かしら通るだろ。俺たちはこのまま予定通りケールスへ向かうだけだ」
「あ、そ」
「というわけだ、ニミュエ、行こうかー」
ブロウが遠くで震えるニミュエに声をかけた。
ニミュエはこくこくとうなずくと、ブロウとイレイスが歩き出してからリズの陰に隠れるようにしてついてきた。
……気の毒だ。
リズは歩きながらそう思ったのだった。
そんなこんなで、その後はいわゆるならず者にも遭うこともなく、無事にケールスの町にたどり着いた。
ケールスの町は来たときとは違い、なんとなく空気が張り詰めていた。特に入国審査が厳しくなったように思う。
もっとも、リズたちは特に指摘されることもなく、往路同様門をくぐりぬけ、シュトーレンへとやってきた。
「ほほほ、本当にありがとうございました…!!そ、それでは10日分ということで、1万ノートです…」
シュトーレンにある魔法使い倫理委員会の支部で、ニミュエは何か書類を書き…すぐに硬貨の入った袋を持って戻ってきた。
それを若干遠いところから投げ渡すような形で渡すと、そのままばたばたと逃げていってしまった。
「……ブロウ、顔立ち改めた方がいいんじゃないのか?」
「…何気に傷つくんだけど、ていうか、どっちかってーと兄貴に言いてぇよ、それ」
「……オトナも、大変なんだよ」
3人はぽかーんとニミュエの背中を見送るばかりであった。ちなみに、ニミュエの旅の終着点はイシュラントであるが、シュトーレンからは乗合馬車で直通だ。また、魔法大国イシュネー王国であれば、魔法使い倫理委員会の委員においそれと手出しする愚か者もいないだろう。
逆に最初にリズが乗った夜行馬車が襲われたときがイレギュラーなケースだったのだ。
「さて、私からひとつ提案なのだが…金も手に入ったことだし、ここで不足品を補給しておかないか?」
「さんせー、前はそのままラゼラルに入っちゃったもんね。それに……」
リズは足元を見やった。リズの靴はもともと旅のために作られた物ではなかったので、すっかりぼろぼろになってしまっている。
マントだって冬用とは言え所詮は町の中で使う安物、ブロウやイレイスが使っている服に比べるとずいぶんとお粗末だ。
「アタシもそろそろ靴とか服とかほしいかなーって」
「じゃ、決まりだな。どうする?夕方ここで集合ってことで」
「ああ、いいだろう。じゃあリズ、お前には2千ノート渡すからこれで買い物をしろ」
「わーい!」
「それから、シュトーレンだけでなく、ケールスや他の町に行っても構わないからな。但し、町の外には出ないように」
「わかったー」
「あぁ、言い忘れていたがブロウ、お前もだぞ」
「……あぁ」
イレイスがにや、と笑ったのに対し、ブロウはいささか憮然とした表情で答えた。
「では、また夕刻に。…くれぐれも、時間には遅れるなよ。」
「あ、ちょ、兄貴、何処行く……」
イレイスは軽く手をあげ、ブロウの質問を軽くスルーして雑踏の中へとあっという間に消えていった。
「……ぁー、いっちまった。」
「ブロウはどうするの?」
「とりあえず、消耗品の買いあさりだな。携帯食料から日持ちする調味料まで一式。」
だからちょっと今回はリズの買い物につきあえないな、とブロウは続ける。
リズはその言葉に、ちょっとだけ残念なような感情を抱く。
今の今までなんだかんだいってつきあってくれていたし、今回は服を買うので第三者の意見も聞いてみたかった、というのもある。
「そっかぁ。じゃ、しょーがないね。そういえば、ブロウの服ってどこで買ったの?」
上から下まで黒尽くめの衣類、というのはそうそう見たことがない。
おまけに、イレイスと対になっているようで、色は違うもののデザインはほぼ同一だったからだ。
「あ?これか?……これは、兄貴のお手製なんだよ。
一応防護魔法もかかってて、魔法攻撃に対する抵抗力が増えるとかなんだとか。ま、それでも物理には効果は無いけどな。」
「へぇ、イレイスの手作りだったんだー…そういや、手先器用だって言ってたっけ。」
路銀を稼ぐひとつの方法として、イレイスが作ったマジックアイテムを売る、ということをしていると教えてもらったことがあった。
もっとも、実際に売っている現場はブロウにとってさんざんだったり、イレイスが楽しむ方法で販売していたりするのだが、リズはそのことを知らない。
「そうそう……って、こんなところでしゃべってる場合でもないよな。」
と、ブロウが我に返ったように話を切る。
「あはは、そだね。アタシも服買いに行かなきゃ。」
「そうだな。じゃ、リズ、気をつけるんだぞー。」
「そっちもねー。」
二人は軽く手を振り合い、正反対の方向へ歩き出す。
リズは南へ、ブロウは北へとそれぞれの目的地へと向かっていくのであった。
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