--東の大陸・ラゼラル-- 2話
屋敷に招き入れられ、客人用の部屋を2室手配してもらい、夕食を頂いた。
シェンド伯爵はお忙しい人だから会えない、とあらかじめ言われていたが、
3人にとって一夜の宿を手配してもらうだけでもありがたかったので、文句などでるはずがない。
そして今、手配してもらった部屋のうちの一室―…
ブロウとセツナが使わせてもらうところに、3人でプチ会議を行っていたのだ。
「うー…まさか兄貴がここにいないなんて。」
ブロウは渋った顔で切り出した。どうやら、かなり予想外の出来事だったらしい。
そりゃあ、伯爵の『保護』を任務にしていたのにその伯爵から離れている、ということなど普通は考えられない。
特に、イレイスは自分のやるべきことを常に冷静に頭へ叩き込んでいるタイプだから尚更だ。
「それは言ってもしょうがないでしょう。」
「そうなんだけどぉ……セツナは冷静だね。」
あっさりと切り捨てるセツナにイレイスと何処か似通った物をリズは感じる。
「オレは何も知りませんからね。むしろ、何かあってもその場で手をこまねいているだけの人ではないと知っている分、自然なように感じますが。」
「それって……つまり。」
セツナの言い方にブロウは何かピンと来るものがあったらしい。リズはその端でどういうことか分からず首を傾げていたが。
「ええ。あちらから動けと直々の命令が来た。ないしは……」
「……兄貴が動かなければいけないほどのイレギュラーな事態が起きた。」
可能性としては後者のほうが大きいことを、ブロウは理解していた。何故なら、スナ王国女王の直々の命。他言厳禁だと、念まで押されたもの。
それがどれだけ重要かわからないほど、イレイスは愚かではない。もし、一方的な用件ならば、いつもの口八丁で乗り切っている。
「うーん、どっちにしてもアリなような……」
リズはそこまで踏み込んだ知識はない。だから、真剣に頭を悩ませていた。
「どちらにしても。このままでは後手後手に回ってしまいますね。」
「……下手したら追いつけないってこと?」
リズの質問にセツナは首を二・三度振る。
「上手く先を見ないと追いつけない、という事です。」
イレイスの先を行く。ただでさえ不可解な事件が立て続けにおきている。きっと彼はそれを的確に読みつつ行動しているのは、容易に想像がつく。
だからこそ。
「……いっそ、此処でしばらく待機してみるのもオレはありかと思います。」
現実に目を向けた、セツナの的確な意見。
「それって、イレイスはここに帰ってくるってこと?」
「ええ。証拠は、貴方達二人を此処に待機させるように命令させた点、ですね。」
リズもそれに納得したのか、そっかぁ、と声を上げた。対するブロウは、眉をひそめて俯くばかりだ。
じっとしているのが、辛い。何か手がかりにありそうなものがあれば、と思考を回しても自分は頭脳で動くタイプではない。
他に案があれば、と考えてみるが、セツナの出した提案より上を行く考えが思い浮かばない。
「納得、出来ませんか?」
「あ、いや!全然そんなこと無いけど!!」
セツナの静かな問いに、ブロウはぱっと顔を上げる。
「……そうですか。では、これで決まりですね。」
「ふぁ………あーあ……」
話がまとまったと同時に、リズが大きなあくびをする。どうやら、結構時間がたっていたようだ。
「リズ、もう寝るか?」
「うんー。そうする。ブロウは?」
「俺は……ちょっとだけ、外に出てくる。」
そうブロウは言って、リズに笑顔を向ける。そして、ドアを開いて、部屋から出た。
ばたん、とドアが閉まって少しの静寂。
「……なんか、ブロウ変だよね。」
感じた事を、そのままリズは口に出していた。イレイスが居なくなったときからそうだ。
何時もの彼からは考えられないほど様子がおかしい。そう、リズでも分かるほどに。
必要以上に焦っていて、どこか苛々としている雰囲気が、今のブロウにある。
イレイスが居ないからという単純なモノではないだろうと考えるのは、最初に会ったときは彼が一人だったから、という理由以外にはないのだが。
「……そうですね。オレも気になっています。」
そういって、セツナはブロウが出て行った扉を見つめる。
「……あの、あたしの気のせいかもしれないけど。セツナって、ブロウに優しい?よね。」
すこしだけ、リズは気になっていた。セツナとブロウとイレイスとルートは知り合いと本人達も言ったのだ。
単純に友人のように見えていたが、セツナがブロウを見る目は少しだけ違う、ような気がしていた。
別にそれが気に食わないとかそういうものではない。一緒に旅をしているルートに対しての扱いの差を比べると凄まじいと思ったからだ。
「……ええ。そうですね。」
セツナは、リズの質問に対し、否定をするわけでもなく、怒るわけでもなく、ただ、ふわりと微笑んでみせる。
「オレ、少しあの人を追いかけてきます。先に休んでおいてください。」
そうして、セツナはかちゃりとドアを開いて廊下に出る。リズはぽつりと一人部屋に残されたわけだが、頭には疑問が残るばかり。
「……い、一体どういう関係?」
少なくとも友人……いや、それ以上の感情がちらりと見えた気がして、リズは首を傾げていた。
月が、ぽっかりと空に浮かんでいる。雲も星も出ておらず、月の光だけが広い館の庭園を照らしていた。
人通りは、時折見張りのものが動くだけで殆ど無い。その中の隅で、その人はぼんやりと立っていた。
「こんな所にいたんですか。」
目的の人を見つけたセツナが、声を掛ける。
その声に気がついて、ぱっと顔をセツナに向けたのは―…ブロウ。
「あ……えっと、もしかして、探した?」
「いえ。オレも丁度外に出たいと思っていましたから。」
嘘半分、本当半分。
「そっか。」
「ええ。」
そのまま、言葉が切れる。お互いに何も言わないまま、風が凪いだ。
気まずいわけではない。仲が悪いわけではない。むしろ、お互いに信頼関係を築いているからこそ―…そういう類の沈黙。
しばらくそのまま静寂に身を任せていると、ブロウが話を切り出した。
「……なんかさ、変なんだよ。」
「何がですか。」
「兄貴が離れてるってのは結構あった。別行動したことだってある。それなのに、今回は特別っていうか……なんか、嫌な予感がする……」
ブロウはそういって、天を仰ぐ。ここ数日のことでも思い出しているのか、その顔は決して明るいものではない。
「……野生のカンですか?」
「ははっ、案外そうかも。」
セツナの軽い冗談に、ブロウは笑う。
「ま、その野生のカンで何か感じたり異変がわかれば何でも言ってくださいよ。あの人まで、とはいきませんが、オレも出来る事はしたいので。」
「ああ。ありがとう。でもなんか……ここんとこセツナに迷惑かけてばっかだよな、俺。」
うー、とブロウがうなり声を上げて頭を掻く。
「別にオレはかまいませんが。」
「いやでもさ……って、そういえばスナ王国にいたよな。なんか用事あったんじゃねぇの?」
「ああ。用事は全て終わらしてきたので。次はどうしようかと思っていたところでしたから。」
実質ヒマ人でしたよ、とセツナは続ける。
「そっか……でも、なんでスナに?」
「企業秘密です。」
ブロウの質問に、セツナはくすりと微笑んだ。
「なんだそりゃ。さって……俺もそろそろ部屋に戻ろうかな。セツナは?」
「あ、オレもご一緒しますよ。」
二人は、屋敷の中へと戻っていく。道中、ぽつりとブロウは思い出したように呟いた。
「そういえば……ルートは今何をしてるんだろ。」
だが、その呟きは隣を歩くセツナに届く事は無く、空中に霧散したのだった。
「ほら、ボウズ、出来たぞ。」
「うん、ありがとー♪」
重々しい雰囲気に包まれた職人という人種に区別されそうな初老の男が、ニコニコと笑っている少年―…これはルートなのだが。に、一本の剣を渡した。
「なあ、その剣……打ち手が誰だったかしらねぇか。」
ルートはその剣をロープを使って体に固定していると、男が質問してきた。
「さぁね。これは僕のものじゃないし。」
「そうか。」
それだけ言うと、男は押し黙った。その時、ばたばたと部屋の奥からあわただしい足音が響く。
ルートが体に剣を固定し終えたと同時に、若い男が部屋に入ってきた。
「はぁー…はぁー…ま、間に合った。おまえ、もう出発するのか?」
「うんまあね。僕を待ってる人がいるんだもの。」
ルートは、彼とはちょっとした知り合いだった。
というのも、スナ王国でセツナと別れて、その鍛冶屋はすぐにわかったものの、剣がまだ出来ていない事はおろか、盗人かとめちゃくちゃ疑われた。
まあ、出来ていないということだったので、入り口の邪魔にならない所で適当に座っていたのだが。
それを見かねた鍛冶屋の弟子が、中に招き入れてくれたのだ。それが、彼だった。
「……そうか。くれぐれも無茶するんじゃないぞ。」
「わかってるって。これは僕の世界で一番大切な人の大切な人の大切な物なんだもの。何があっても守り通してみせるって。」
ルートはびっと親指を立てて若い男に向ける。向けられた男は、笑って返した。
「じゃあね。お世話になりました。」
ルートはリュックサックを剣の上から背負うと、ぺこりと二人にむかってお辞儀した。
そして、ドアをがちゃりとあけて外に出る。外はまだ薄暗く、太陽が少しだけしか顔を出していない。
肌寒い風が、通り抜ける。ルートは空気中の匂いをくんくんと嗅ぐ。
「……シェンド伯領。この方向と濃度は……室内。シェンド伯爵の館かな。」
その場で足を使って真っ直ぐ一本の棒を地面に引く。そして、その棒に沿って両手を水平にむけ、地に付ける。
足は片方をピンと伸ばし、もう片方はひざを曲げる。いわゆる『クラウチングスタート』の図だ。
「いちについてっ……よーい……」
ぐ、っと腰が上がる。
手に力が入る。
「どんッ!」
瞬間―・・・ルートは音速さえも凌駕しそうな速度で走り出した。それはまさに金色の弾丸。
もしもこれが人の多い昼間ならば、弾丸が生んだ衝撃波で服がずたずたになり、あっという間に深夜番組へと街中が様変わりしていただろう。
と……後にこっそり窓からのぞいていた若い鍛冶屋の弟子が言ったとか言わなかったとか。
イレイスを待つと決めたので、朝の行動としてやることがあった。
一つは、従者に数日滞在する事を告げること。これは、イレイスのほうが事前に了解をとっていたらしく直ぐに許可が取れた。
そして、もう一つ。
「兄貴はなんでティーノ伯爵領に向かったのか知りたい。」
朝ごはんを食べている途中、ブロウがそう話を切り出した。ちなみに、客人という扱いらしく、別室で食べさせてもらっているので、他の人間はいない。
「知ったからといって行けないですよ。」
セツナがブロウの発言にぴしりと返した。手には食後の紅茶。本日のフレーバーはオレンジペコー。
「いや、そうなんだけどさ。兄貴の目的が見えたら、何かできることも見えてこないかなって思って。」
「あ、それいいかも!イレイスのことがわかれば、追いつく手がかりが見つかるかもしれないもんね!」
リズが肯定的に答える。周囲には1.7人前の空になった食器が重ねられていた。
ちなみに0.7人前はセツナの食べきれないと言った分を食べた結果である。
「……と、なると今日は聞き込みでもしてみるんですか?多分あの人の事でしょうからそれらしい痕跡残してらっしゃらないと思いますが。」
知られて困るものなのか、知られても困らないものなのかはわからない。
情報を隠蔽……とまではいかないものの、簡単に悟られないように従者には行き先程度しか告げていないだろう。
「うーん……外で聞き込みしてみたら結構良いと思ったんだけどなぁ。」
大きな屋敷の窓から見える風景は、賑やかな町並み。人通りも多そうだし、白尽くめの人間を探すのはそんなに難しくないような気になる。
「……まあ、それもそうかもしれませんね。ですが、貴方……イレイスもですが。
女王様から依頼とやらを受けてきたのですよね?そっちは投げっぱなしでいいんですか?」
「……あ。」
忘れてた。セツナの言葉に、記憶がよみがえる。
スナから受けた、クレス伯爵の護衛。イレイスが受けたとはいえ、二人で話を聞いたのだ。
いくらなんでも自分まで投げるのは悪いだろう。
「……えー?でも、それってあたしとセツナって関係ないんでしょ?」
「ええ。聞き込みは出来ますよ。二手に分かれれば。オレとリズが外で話を集めます。ブロウは屋敷で。そうするのが一番自然ですけど。」
どうします?とセツナがブロウに視線を向ける。
確かにセツナの言うとおり、依頼について二人は話を聞かされていない、むしろ秘密事項だから此処に居るほうが変だ。
「んじゃあ、頼んでも良いかな?俺もなるべく話を聞いてみるよ。」
「うん、決まりね。」
話がまとまった時、こんこんとドアがノックされる。失礼しますという言葉とともに部屋に入ってきたのは一人の執事だった。
「ちょうどいいや。もしかしたら兄貴達のこと知ってるかも。」
ぽつりと、ブロウは呟いた。何せ馬車で出たと仕える人から聞いたのだ。秘密でもなさそうだし、連れの姿くらい見ていても不自然ではないだろう。
「食器をお下げします。」
ぺこりと一礼し、執事はテーブルに向かう。そして、手押しの台車のようなものに手早く空いた器を載せていく。
「……あの、執事さん。」
ブロウが思い立ったら早速というふうに、執事に話しかけた。
「いかがなさいましたか?」
「兄……じゃなかった。何か白尽くめの人が此処に来て馬車に乗ったと思うんだ。その人は、一人だけで行ったのか?」
ブロウの質問に、執事は少しだけ考える。
「そう、ですね。二人の男性と一人の男の子、それと女性の方が一人ご一緒だったかのように思えますが。」
それだけ答えると、執事は来たときと同じように恭しく礼をして部屋を出て行った。
「……どういう集団?」
執事の言葉にリズが首を傾げる。
いままで旅で知り合った人間が、とも考えられるが生憎リズには思い当たる節が無い。
ではブロウのほうに心当たりがあるのかと思い視線を向けるが、彼もわからないといったように首をゆるゆると振った。
「……意外と大人数ですね。ですが、逆に調べやすいでしょう。」
「だね。多分お屋敷の人が大体しかいえないってことは外の人なんだと思うし。」
「よし、じゃあ行動開始だ!」
ブロウの言葉とともに、3人は部屋の外へとでたのだった。
「ふぁー……結構大きな町なんだねぇ。」
屋敷から出て改めて感じる、町の活気。王都までとはいかないものの、ラゼラル王国内ではかなり賑やかなほうの部類に入るだろう。
「ここの領主は厳格でもなければ、ティシモのように神聖視されることもありませんからね。かなり自由にやれるんでしょう。」
セツナは感動するリズを傍目にひょいと肩をすくめた。
「さて。できるだけ迅速に動きますよ。此方に手がかりが無い以上、一軒一軒店を回ってみるしかないんですから。」
「うぇー、それって結構メンドクサ……」
リズがこれからやらなくてはいけない動きが容易によめたのか、肩を落としてため息をつく。
「そういうぼやきは後日、イレイス本人にでもぶつけてください。」
そんなリズにセツナは八つ当たりされてはたまらないのか、しれっとリズには到底無理な事を提示しておくのだった。
「さーて……どうすっかなぁ……」
割り当てられた部屋のベッドの上で、胡坐をかいて考え込む。
「とりあえず、今俺が何をすればいいのか、っていう話だよなぁ……んー、一回イチから組み立ててみるかな。あんま得意じゃないけど。」
一人になってしまったので、軽く自分が知っている情報をまとめてみる事にする。
本来はこういう頭脳関連は殆どっていうか全てイレイスに任せてきた。と、いうか気がついたら全部やっていた、という表現のほうが正しい。
「えーっと、まず、俺と兄貴はスナ王国の女王様から頼まれごとをしたんだよな。」
もしかしたらもっと前の時点から話はあがっていたのかもしれないが、今自分が気づくことはそこからだ。
わかることから理論を立てていけ、というのは誰でもない、いつもそういう事をしてきた兄の言葉だ。
「確か内容が―…『諍いがおさまるまでクレス殿の保護』だっけか。で、注意点として当事者以外の誰にもバレないようにするんだったよな。」
それで自分は兄に華麗に置いていかれたのだ。今なら何となく理解できるのだが、もしかしたらイレイスはリズを一人にさせるのを嫌ったのかもしれない。
ヒオウという優秀な魔法使いに教えを請わせる事でリズ自身のスキルアップを図りたかったが、あの無鉄砲な性格の事、もしかしたらスナ王国くらい何らかの理由で出て行くことのことはしそうだ。
「……もしかして、俺って結構不味いこと……いやいや。実際兄貴はいないんだし、依頼を引き継がなきゃいけないのは俺だよなぁ。」
うんうん、と一人納得して思考を再開する。余計な事をはりきってやっちゃった気がするが、気にしないことにする。
「……そういえば、なんでクレス伯爵を保護する必要があるんだろ。えーっと、一回聞いた話だと、今の国王様は無能だって言う人が居てー……
で、その人たちは違う人を王様にしたくってー……で、その人は王様の息子で……うー、頭痛くなってきた。」
むぅ、とブロウは眉をひそめてこめかみに手をあてる。
こういうとき、兄がいればものの数秒でわかりやすくまとめてしまうだろう。あらためて自分のアホさ加減にため息が出る。
「息子を王様にしたい人たちがクレス伯爵を狙ってるってこと?
でも、それだと伯爵を保護する理由にはちょっと足りない気がするんだよな。えーっと、他に何かわかってること……」
再びブロウは思考の海に沈む。彼の場合、海という液体ではなく沼なのかもしれないが。すぐに思い当たる節があったのか、ぽんと一度手を叩いた。
「あ、金印かな?たしか、伯爵の命とかと一緒くらい大事なものって聞いたし。で、ティシモはそれを盗られてる。狙っている人がいるわけだ。
んーと、それは多分クレス伯爵が持ってるなり在る場所を知ってるから、狙われてるかもしれない……かな?」
なんとなく、事態が見えてきたような気がする。つまるところ、外部の誰かがクレス伯爵を襲いに掛かる可能性があるのだ。
そして、クレス伯爵と親しいらしいスナ王国の女王と賢者は、その身を案じている。しかしそこで、もう一度首をひねるところがある。
―…そう、イレイスの行動だ。
「そこまでは、兄貴も普通にわかってる。
俺がここまで話を持っていけたのが何よりの証拠。なんで兄貴はクレス伯爵を置いていくようなマネをしたんだろ?」
そこが一番の謎だった。イレイスのこと、重要な依頼を無責任にほうってどこかに行く事はない。
何か理由があるはずなのだ。だが、いくら考えてみてもその答えはわからない。
「……うー、わかんねぇ。もしかしたら、クレス伯爵なら思い当たる節が……あ、そっか。」
自分の言葉に、ハッと気づかされる。そう、依頼上イレイスとクレス伯爵は言葉を交わしてお互いの状況を知らせあっていることは間違いない。
『当事者』以外に知られてはいけないのだから、当事者とは話をしている。
「よし!とりあえずクレス伯爵に会って兄貴のことを聞いてみよう!」
やることは決まった。後は実行に移すのみ。
忙しい方だからあえない、とは聞いていたがイレイスの実の弟であるという自分の身と挨拶したい事を告げれば10分ほどは時間をとってもらえるだろう。
ブロウは立ち上がると、部屋を勢い良く出たのだった。
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