--東の大陸・ラゼラル-- 3話
「……そうですか。わかりました。」
セツナが、目の前の酒場の主人にぺこりと頭を下げる。リズはもう何度も見てきたやり取りなのか、どこか退屈そうに見ているだけだ。
「コッチも力になれんで悪かった。」
「いえ。では、お騒がせして申し訳ありませんでした。」
セツナはくるりと身を翻す。もうここに用は無い。ならばさっさと次に行くしかないのだ。
「あ、そうだアンタ。」
前に進もうとすると、主人が声を掛ける。
「はい?」
呼び止められたセツナが足を止める。
「もし、よければ今晩ウチで働いて見ないかい?特にそっちのアンタはかなり別嬪さんだから、ちょっと多めに出す……」
「結構です!」
セツナはきっぱりと断り、不機嫌極まりないといったように宿場のドアを蹴破るように開けて外に出る。
後ろを歩くリズの顔は、なんだか引きつっていた。
「……これで6件目だっけ?」
酒場の外に出た瞬間リズがポツリと呟いた。
「直接声を掛けられたのみのカウントでしたらね。」
苦虫を噛み潰したような顔でセツナは返す。
他にも態度が明らかに女子を扱うそれだったのが3件、ナンパもどきが4人、通りすがりのよっぱらいがいやらしく触ってきたのが3人居た。
「うん、セツナってさ……こう、ほら、大人しそうだから、よけいじゃないのかなぁ?」
多々セクハラ行為を隣で展開されてきたリズはなんとなく心配になる。最も、リズという立派な女子がおりながら男であるセツナにばかりそういう事をされているので、脳内の変なプライドが警告を出しているが、代わりに自分がそういう目に合いたいかと問われると絶対に嫌なので、警告どまりだ。
「多分、となりに居るのが貴方ですから余計です。傍から見れば若い女二人組にしか見えないからですよ。」
あと情報収集のため酒場を回ってる、ということもありますが、とセツナはくわえた。
「でも、ルートは子供でしょ?声とか掛けられなかったの?」
「かけられる事はありますよ。片っ端からルートが暴力で解決していましたけど。」
どうやって、とリズは首を傾げる。ルートは見たところ子供だったし、大人を暴力でどうにかできるとはとても思えないからだ。
「それよりも……一つとして手がかりが見つけられない現状のほうが悩みます。」
セツナは道中で購入した簡易マップにバツ印をつける。これは、聞き込みを行った宿や酒場で言った事のあるところにつけていったものだ。
片っ端から、という表現が正しいようにすでに幾つもの印が地図にはつけられていた。
「うー、あたしもなんだか疲れてきたー……」
リズが言うのも、仕方が無い。朝から聞き込みをしていたのだが、手がかりの無いまますでに夕刻か訪れようとしているからだ。
「そうですね。あとここだけ寄って一度戻りましょう。もしかしたらブロウが何か見つけてるかもしれませんから。」
セツナもこれ以上は無意味だとわかっているのか、あっさりとリズの希望を飲む形にした。
指した最後の一軒は、屋敷よりそれほどはなれておらず、大通りより少しはなれた小さな宿屋。
恐らく、よくある食堂すらもない珍しい形のものだろう。いまいる場所からは少しだけ距離があるが、屋敷に戻る道すがらなので苦痛は少ない。
「はーい。こんどこそ見つかればいいんだけど。」
「いらっしゃい。」
二人が中に入ると、初老の男性が迎え入れてくれた。
「すいません。オレたちは客でないんです。」
セツナはそう切り出し、探している人物の特徴を告げる。といっても、団体さんでの特徴なのだが。
一人の女性と、三人の男、それと少年。そんな団体を見なかったかと告げた。男性はセツナの言葉を聴いて少し考えるような声を上げる。
「それだけじゃちょっとねぇ。何か特徴はないかい?」
「そのうち一人は、上から下まで白尽くめですけど、心当たりありませんか?」
「……!白尽くめ……ああ、その人なら見たかもしれないね。確か、一人の女性と一緒にこの宿に知り合いでも居るのか入ってきたんだ。」
「……おそらくその方です!どういう団体だったか覚えてらっしゃいませんか?」
「一緒に外に出てくる所は見ていないからちょっとね。ただ、君のいう言葉に合わせると、変な4人組は来たよ。
ローブをすっぽりと被った女性と、別の大陸の人間が二人。それと、やたら調子の悪そうな男の子が一人だ。」
そういいながら男性は手元にある本をぱらぱらとめくる。おそらくそこに止まったものの身分や名前を記帳させているのだろう。
「そうだ。確かそのうちの一人の名前が……シラギ、だね。」
代表者一人のみの記帳らしく、それ以外のことについては書いていない。宿をとった時間と、出て行った時間のみが記されていた。
「そうですか。ありがとうございます。」
「いいえ、こんどこの辺に来たときはぜひともうちに泊まっていってくれよ。」
「……考えておきます。」
セツナはそう答えると、ぺこりと礼をして出て行く。リズもそれについていった。
「やったね!なんとなく情報がつかめたね!」
「別の大陸の人間と片方の名前しかわかりませんでしたが……まあ、上々でしょう。」
そういいながら、二人は大通りのほうに出て行く。太陽は既に二割ほど身を沈め、空は朱色に染まっていた。
人々は帰路につこうとしているのか、結構せわしなく歩いている。そのなかで、ひときわ軽やかな足音がこちらに向かってきていた。
「せ、っちゃぁあああーん!!!」
それは剣を後ろにロープでくくりつけるように背負ったルートだった。歓喜の笑みを浮かべながらセツナのほうへと走ってくる。
距離が50メートルを切った瞬間、しゃがみこむと空高く跳躍。驚きの顔を上げるリズの傍でセツナはその場から3歩左に動いた。
直後、ルートが先ほどまでセツナが居た地点にべしゃんと顔から床にダイブ。
「……うう、受け止めてくれたっていいじゃない。」
床に突っ伏するルートが、うめき声とともに不満の声を上げた。
「早く起きなさい。通行人の邪魔になりますよ。」
セツナはそちらを一瞥する事も無く淡々と言い切った。
「相変わらずだね、ルート……」
リズがその姿をみてポツリと呟いた。と、その時―…なにやら遠くのほうから騒がしい音がし始めたのだ。人々の喧騒のなかに聞こえる、馬車が走る音。
「……早く立ちなさい!」
セツナはつぶれたままのルートを引き起こすと、リズをつれて通りの端に身を寄せる。
直後、十数台の馬車がシェンド伯の屋敷の方向にものすごいスピードで駆け抜けていく。
「……今の馬車さ、紋章がついてたね。」
走り去った後、ルートがぽつりと呟いた。
「ええ……国王直轄正規軍のものでしたね。」
「え?何?何??」
セツナとルートが言葉を交わすが、リズには全くわからない。
「……ルート、リズの身を頼みますよ。なにやら嫌な予感がします。」
「えー?また僕お留守番?」
ルートが不満そうな顔を作る。
「え?セツナ、どうするつもりなの?ていうか、何か不味いわけ?」
「理由は後でゆっくりと語ってあげますよ。リズ、あなたは先ほどの宿で部屋を一室取ってください。地図は渡しますから、場所はわかりますね。」
セツナに簡易マップを渡され、リズはうなずく。よくわからないが、なにやら大変な事がおこりつつあるらしいのは雰囲気で理解できた。
「せっちゃん、無理だけはしないでね。」
「わかっていますよ。」
ルートが背負っていたブロウの剣をセツナに差し出す。セツナはそれを受け取ると屋敷のほうへ走り出した。
「ルートにしてはあっさりセツナを行かせたけど……大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ。」
リズの質問に、ルートは首を縦に力強く振り、親指をリズに向ける。
「だって夜のせっちゃんは無敵だもん♪」
時間は、ほんのわずかにだけさかのぼる。日がゆっくりと落ちかけ始めた頃、ようやくブロウはシェンド伯爵ことクレスにお目通りの時間が取れたのだ。
会話できるのは1時間もとれない、とのことだったが自分1人の行動にしてはなかなか上々だろう。
「……し、失礼します。」
少しばかり他とは違う豪華なドアを二回叩く。
「……どうぞ。」
中からクレスの声が響き、ブロウはドアを開いて部屋に入る。ドアと同じように、内装も少しばかり豪華だった。
眼に入る幾つかの調度品が、ここが普通の部屋で無いことを表していた。
「何。そんなに固くならなくて良い。」
知らず知らずのうちに動作がぎこちなかったのだろうか。ブロウはクレスの声に少しだけ身をすくませながらも、対面するように椅子に腰掛けた。
クレスはその間もじっとブロウを値踏みするかのように見つめている。
「……ええと、」
なんとなく居た堪れなくなり、ブロウはなんとも形容しがたい顔を作る。
「―…どうせ、片割れのことを聞きにきたんだろう?」
ブロウよりも先に、クレスのほうがそう切り出した。
「あ……わかります?」
「まあな。此処に来た理由を全て知ってる―…ってわけでもないが、色々オマケもついていた。恐らく正規の目的ではないな、というのは想像がつく。」
オマケというのは、リズとセツナのことだろうか。セツナはとても頼りになるのだが、まあ知らない人が見れば只のオマケで間違いない。
そもそもこの依頼は極秘という二文字ありきなのだ。余計な者など連れてくるだけ邪魔だろう。
「俺は、今兄―…いや、イレイスが何をしているのか知りたいだけなんです。」
「……ああ。その上で一つ聞かせてもらう。それを知って、どうするつもりなんだ?」
クレスの質問は、当然の事だった。目の前の人間は少なくとも自分の護衛にと、スナ王国がよこしてきたものだ。
今までブロウがやろうとしていたことは、依頼を放り投げるという行為に等しい。
「……この騒動の手がかりを探して、少しでも状況を把握しておきたいんです。」
ブロウが答える。
あらかじめ用意していたわけでもないが、つまるところの自分の目的だからだ。クレスはブロウをじっとみつめて、そして少しだけ口角を上げる。
「本音は?」
「う、ほ、本音ぇっ!?」
まさかそう切り返されるとは考えておらず、思わず声が裏返る。
ブロウの慌てっぷりにクレスがにやにやと笑っていて、ブロウは間を取り直すように一度息を吐く。
「ええと―…なんだかんだで安心?したいんだと思います。いつも無茶苦茶だし……
傍にいたらいたで大分俺もその片棒を担がされるんですけど、いやまあそれは何時もなんですけど……」
本当に言いたい言葉が見つからず、ブロウは言いかけていた言葉を打ち切る。一度心を落ち着かせるように息を吐いて、それから息を吸って。
結局、自分はどうしたいのか。こちらをじっと見つめているクレスはそれを問いたいのだとわかる。
「少しでも力に、なりたいんです。」
この時初めて、自分が求めていた事を探し当てたのかもしれない。どこか心配だった時も、闇雲に進んでいるときも、セツナと話している時でさえも、結局自分が何をしようとしていたのか、何をしたがっていたのかが解らなかった。
結局のところ、初めに反対したのも自分が無力だと叩きつけられたのが癪だったのかもしれない。
「……なるほど。まあ、隠すべき事柄でも無いし、知っておくべきだろう。」
クレスはブロウに小さく微笑むと、話を切り出した。
まず、イレイスが此処に居ないのは、ティーノ伯爵の子息フィリンツと共に金印を求めてティーノ伯爵領にある屋敷にむかったからだと言った。
そして、その間近辺の警備を強化し、怪しい動きは即刻見つけ出す事を指示されたのだ。
クレスはありきたりだが今の時点では最も有効な手段としてそれを採用したという事だった。
ブロウ自身、ティーノ伯爵に子孫が居る事など初耳だし、そもそも何故兄がそんな人物とコンタクトを取れたのかが謎だったが―…
まあ、其処は兄だし、ということで片付けた。と、そこまで話したとき不意に外が騒がしくなるのを感じる。
「……何だ、一体……」
その騒ぎにいち早く立ち上がり、外をうかがったのはクレスだった。赤がゆっくりと深い蒼に染まっていく空の下、まるでこちらに突っ込んでくるかと思うかの勢いで走ってきたのは、十近い馬車。しかも只の馬車ではなく、煌びやかな紋章がついている。
「国王直轄正規軍……?」
クレスはその紋章に見覚えが無いわけが無い。何故ならそれはラゼラル王国の所有している軍隊のものだからだ。
だが、何故―…と、考えかけてすぐに思い当たる。そうか、そういうことかと。
「……一体、なんですか?」
ブロウはブロウで立ち上がり、クレスを護るように傍に立つ。何がやってきたのかはさっぱりわからないが、なんだか嫌な予感がしたのだ。
決して笑顔で迎え入れるべきでないと、本能が訴える。
「なるほど、法に訴えてくるわけか……ここで。」
クレスはひとりごちる。フィリンツは少なくとも、こちらにとって厄を運んできたようだと笑う。
全くのノーマークであるわけがない。上手く助け出せたとしても、何かしらの目印になるような魔法が施工されていたとしてもおかしくはない。
「クレスさん、貴方は何を―…」
「ブロウ、お前片割れに連絡取る方法はあるか?」
知っているのか、と聞こうとして、急に質問を振られたものだからブロウは一瞬戸惑う。
連絡をとる方法、と言われても自分には魔法が使えないから無理な話だ。しかし、今は一人ではない。そう、セツナならば―…何らかの手段を講じて可能だ。
「俺は出来ませんけど、仲間の一人が出来るはずです。」
「そうか、なら、今すぐにでもー…」
クレスが何かをブロウに告げようとしたとき、悲鳴交じりのメイドの声が響くと共に、荒々しく扉が開かれた。
そこから雪崩れ込むように入ってきたのは、全身鎧をがっちりと着込んだ兵士だった。
「……シェンド伯爵のクレス殿とお見受けする。」
そのうちの一人が物々しい口調で告げる。その鎧には馬車と同じような紋章が象られていた。
「随分と無礼な方達だな。最近王家が変わりつつあると聞いたが、そんなに野蛮になったのか?」
クレスが挑発するかのように言うが、兵士は態度を全く崩さない。もっとも、その兜の下は全く見えないので解らないが。
「……貴方に今現在ティーノ伯爵領襲撃の罪及び金印強奪の疑いがかけられています。ご同行御願いできますね?」
「―なッ!」
声を上げたのは、ブロウだった。何が起こったのかいまいち把握できないが、このままでは不味いことになる。
それは、クレスの浮かべている表情からも見て取れた。
「もちろん、其処にいらっしゃる旅人様も共謀の疑いがあります。」
抵抗は無意味だ、と無言で周囲に立つ兵士が語りかけてくる。どうしようもないとブロウとクレスのお互いが無言で視線を交わした時だった。
不意に、部屋に暗闇が落ちる。それは日が落ちて出来る月夜に似ているが、似ているだけで全く異なるもの。
兵士達にとっても予想外の光景だったらしく、統一された行動に戸惑いが見られる。
「……これは―……暗元素の魔法!?」
驚くクレス。なぜならば、この魔法は常人に使える物ではないからだ。
だがその間にも闇はみるみるうちに部屋を一寸の光も届かぬ完全な漆黒に彩られてしまう。
「若干、遅かったみたいですね。すいません。」
声が、響く。眼を凝らすように前方を見ればそこに人影が一つ浮かび上がるようにして現れた。
それどころか、本来影に包まれて見えないはずである隣の人間も見えるのだ。
「セツナ!来てくれたのか!!」
「ええ―…ですが……今の状態では貴方を連れて逃げる事ができそうに在りません。」
ちら、とセツナがクレスを見る。
視線を受けたクレスは一瞬だけ呆気にとられたような表情を浮かべるが―…直ぐに真剣なものに戻る。
「ああ、そうだな。お前が一体何者なのかわからないのが残念だが、止むを得ない。ここで二人捕まるよりはマシだろう。」
「でも、それだとクレスさんが―…」
「コッチはまだ身分があるから何とかなる。でもお前は只の旅人だ。」
クレスの言葉に、セツナが同意するように一つうなずく。たしかに、ブロウが捕まっても悪い意味で手厚い歓迎を受けるだけだ。
ならば、たとえお尋ね者になろうともイレイスが何とか行動を起こすまで、逃げ続ける必要がある。
「―…いいですね、ブロウ。」
セツナがブロウの手を掴む。
「ああ―…クレスさん、その、何も出来なくて、俺……」
「それはいい。今からだろ?期待は一応しとく。」
小さくクレスが微笑む。その瞬間―…闇はまるで幻だったかのように消え、後に残ったのはクレス伯爵と兵士のみであった。
「らん♪らん♪ らんらららん♪」
あれからリズとルートはセツナに言われたとおりの宿で一室取っていた。
心配でいてもたっても居られないリズとは逆に、ルートは気楽なものでベッドに座ったまま鼻歌を歌っている。
「らん♪らん♪ らんらららん♪」
何の歌なのかはさっぱりわからないが、単調なテンポが逆にイラっとくる。リズは外に出ようとも何度かおもったが、自分が行っても何もできないのは火を見るより明らかなのでくるりと踵を返す。そんな行動を何度か続けていると、ついにルートが話しかけてきた。
「あのさぁ、りずりず、熊みたいにうろうろしたってどうしようもないよ?」
「熊みたいにって……だって、二人とも遅いんだもん!!ルートは心配しないの?」
外はすでに真っ暗である。日が沈む前に別れたとはいえ、少し遅すぎるような気がしたのだ。
ルートは、リズの言葉に悩むように人差し指を顎にあてる。
「うーん、僕はせっちゃんの危機には鋭いからー、考えるよりも本能が先走るし?」
今のところ全然そんな感じしないし、とルートはあくまでも気楽に言う。……等と言っていると、扉が開いた。
「只今戻りました。その様子だと、良い子にはしていたみたいですね?」
部屋に入ってきたのはセツナとブロウ。
「うん、ばっちりだったよ。そっちはどう?」
「あー…そのことなんだけど、ちょっと面倒くさいことになっちまった……」
ルートが明るく問うが、ブロウは申し訳なさそうな顔をして答える。
「え?何々、何かあったの?」
リズも思わず聞く。自分達でもある程度情報収集したものの、やはりブロウが鍵とならなければ話はまとまらないからだ。
「まず、座りましょうか。話はそれからです。」
そうセツナが促す。ルートはベッドの上に座ったままだったものの、リズもブロウもセツナも立ちっぱなしだ。
あまり大きくない部屋を借りたため、とりあえず奥に調度品として備えられていた小降りのテーブルの傍にあった椅子に座る。
「とにかくさー、僕ぜんっぜん何がどうなってんだかわかんないんだけど。結局いっちーは居なかった、ってことでいいの?」
剣を届けるという役目で丸1日出遅れたルートが一番初めに話を切り出した。
「そうだな、先ずはルートにも説明しとこうか。ついでに話もまとめられそうだし。」
そうブロウが言って、お互いに話をまとめる事にした。
「ええ。先ずイレイスが護衛をやっている、という事でオレ達はシェンド伯爵領まで来ました。
しかし、イレイスは既に何処かへ発った後。仕方が無いので情報を集める事にしたのです。」
セツナが淡々と得られた情報を話し出す。まず此処にはイレイス以外の人間が泊まっていて、そこにイレイスがやってきたということ。
宿の人に聞くには、元々此処で宿を取っていたのはローブをすっぽりと被った女性と、別の大陸の人間が二人。
それと、やたら調子の悪そうな男の子が一人だということ。
「―…というところですね。ブロウ、心当たりは?」
「いや、俺はさっぱり……えと、次は俺だよな。……えと、先ず始めに謝っとく。御免。」
ブロウは自分の話を始める前に頭を深々と下げる。
「ちょ、ちょっとブロウ、もしかして全然情報無かったとか!?」
リズがそんなブロウに慌てる。しかしブロウはそういうことじゃないとばかりに軽く首を振ると、話を始めたのだった。
「俺はクレス殿に話を伺いにいったんだけど、忙しい人みたいで結局時間が取れたのは夕暮れ前だったんだ。」
それから、ブロウの話が続いた。
まず、イレイスが此処に居ないのは、ティーノ伯爵の子息フィリンツと共に金印を求めてティーノ伯爵領にある屋敷にむかったからだと聞いたこと。
その間は、警備を増やすように助言をした事。
「そして、その話の途中、変な紋章があった兵士に連れてかれそうになったんだ。」
となりでセツナがうなずく。
「そこで、セツナが助けに来てくれたんだけど、クレスさんは結局捕まる事を選んだんだ。」
「えぇー、なんで?捕まっちゃうほうが問題じゃないの?」
ブロウの言葉に、リズは首をかしげる。
「身分の違い、ですよ。
クレスはあくまでも伯爵。無実の罪とはいえ、逃げれば肯定したことになりますからね。それに、捕まったとしても無下には扱わないでしょう。」
「なるほどー…そっか。」
「ま、旅人のぶろりんだったら捕まったら最後、日の目を見れないかもしんないしね。」
ルートが全然笑い事ではないのだが、けらけらと笑いながら言う。
何も知らぬ人が見れば不快な事この上ないのだが、すでに彼の行動には慣れているので、誰一人として眉をひそめるものもいなかった。
「なんでクレスさんは捕まっちゃったんだろ?悪い人にはとても見えなかったんだけど。」
うーん、とリズが眉をひそめる。
「……多分、王国に嵌められたんじゃなーい?ほら、今って結構ごたごたしてるらしいし。」
「ええ、じゃあ悪人は国!?あたし達、国を相手に何とかしようってしてんの?」
リズは今更ながら自分のおかれている立場に気がつき、驚きの声をあげる。
そりゃスナ王国に来たときもまるで元一介の町娘ではないような扱いをされたものだが、その点については特別扱いにあまり気がつかなかったらしい。
「……というか、ガチで面切って喧嘩売った事になりますよね?」
セツナは何を今更、というように落ち着いた調子で返す。ブロウのほうに視線を向けているのだが、向けられたブロウは小さく気まずそうに呻くばかり。
「えぇ?ぶろりん、何してきた―…あ、そういうこと。」
ルートが何かを言いかけて、しかし直ぐに意図する事に気がついたらしく、ぽんと一度手を叩いた。
「え?え?どういうこと?」
しかしリズにはわからないらしく、一人首をかしげる。
「オレが助けに行ったとき、既に伯爵の部屋に兵士は乗り込んでいました。
もちろん其処にブロウもいました。まぁ、魔法を使って簡単に眼くらましなどしてきましたが―…面は確実に割れてしまっているでしょうね。」
「……要するに、良くて指名手配―…悪くて、この辺に捜索隊が組まれていてもおかしくないってこった。」
「え、えええええー!!!」
再び大きくリズが驚きの声を上げる。まさか国に追われる立場になるかもしれない、などと数ヶ月前までは夢にも思わなかったからだ。
「……今のところはそんな感じですね。とりあえず、イレイスの合流を狙って首都まで行きましょう。基本、身を隠しながらの行動になりますね。」
とりあえず驚きに固まるリズをさておき、セツナが話のまとめに入る。
「え、えっと、そのことなんだけどさ……」
そんな中、ブロウが少し話しづらそうに提案するように話を切り替える。
「ブロウ、一人で行動する、なんてほざかないで下さいね。とりあえずコッチも乗りかかった船なんで。」
しかし、セツナは直ぐに彼が何を話そうとしているのかわかったらしく、ブロウが言葉を続ける前に先手を打つ。ブロウも図星だったのか、そのまま動きを止めてしまった。
「そーそー。夜中に抜け出そうなんてしたって無駄だよ〜。僕がその時はしっかり仕留めるからね♪」
にこにこと、ルートは笑った。
「あ……うん、悪い。ありがとう。」
「さて、そろそろ夜も遅いですし、今日は早めに休んでおきましょう。オレはイレイスに伝言を出しておきます。ルート、よろしく御願いしますね。」
という言葉で、今日はお開きになりとりあえず休む事になったのだった。
次へ→