--東の大陸・ラゼラル-- 6話


翌日からイレイスとスイレンは王都ラゼリアを目指した。
今回は路銀と時間を節約すること、そして王都へ向かう移動手段の確保が難しいと判断したため、魔法を使って移動することにした。
雷元素の付与迅力(ふよじんりょく)という魔法で、一時的に身軽になって素早く行動できるものである。
スイレンはこの魔法を知らないと言ったのだが、イレイスが教えて2度ほど練習すれば使い物になる程度に習得した。
全く、誰かと違って飲み込みが早いなとイレイスがごちると、スイレンは苦笑した。おそらくスイレンも誰のことをさして言ったのか想像がついたのだろう。
「エルフ族だから自分の属性以外の魔法は苦手としているのかと思っていたが、なかなかやるじゃないか」
「ええ…元々学ぶことが好きでしたし……何度か短期間で魔法を習得することもありましたから、コツみたいなものは掴みかけてるんですよ」
「それは頼もしい限りだな。では、行こうか」
「はい」
イレイスとスイレンはそれぞれの方法で集中し、雷元素を呼び寄せる。そして、付与迅力の魔法を発動させたのだった。
ということで、約1日後の夕方…付与迅力の魔法は身軽になって素早く行動できるとは言え、持久力まで向上するわけではないので途中で度々休息を入れながら進み……それでも普通に歩くよりはずっと早くラゼラル王国の王都、ラゼリアに到着した。
ラゼリアの規模はイシュネー王国の王都イシュラントには及ばないながら、王都らしい活気のある街であった。
イシュラント同様に、街の中心に見える大きな石造りの城はラゼラル国王の居城である。そのほかには目に付く大きな建物はなさそうだ。
到着したついでに城門付近に居た人間に世間話をふっかけたところ、シェンド伯爵クレスが反逆罪で身柄を拘束され、現在護送中であるらしい。という話が聞けた。どうやらイレイスたちはクレスより先にラゼリアに到着することができたようだ。
距離的にはイレイスたちが優位であったが、相手が馬車を使っていることを考えるとやや不安があったのも事実である。
「さて、なんとかラゼリアに到着しましたし、これからどうされるのですか?」
「ふむ、しばらく別行動だ。スイレンにはスイレンの用事があるのだろう?」
「え?ええ、まぁ……」
スイレンはイレイスのサポートをするつもりであったので、イレイスから出た言葉に少し拍子抜けしてしまった。
…だが思い返す。スイレンは元々自分の目的のためにここに来ると言ったのだ。
「スイレン、この茶番はどうすれば終わると思う?」
「そうですね……結果を別にすれば、七伯が現在の国王を交代させることについての結論が出れば終わるのではないでしょうか?」
「そう。そして今、その七伯のうちティーノとティシモは金印を持たず、シェンドは少なくとも今回は七伯の権利を行使することはできないだろう…な」
そして残るのは、王太子を推挙する者たちばかりである。更に、今ティーノ伯爵領は仮ではあるが王太子が統治している。
そのまま王太子が七伯の権利を行使されたら完全にラゼラルは王太子の思う壷となり、少なくともクレスはそのままシェンド伯爵で居続けることはできないだろう。
それを阻止するための鍵は、ただ、ひとつ。
「では、その七伯の名を挙げられるか?」
「えぇと、あまり詳しくはないのですが……ティーノ、シェンド、ディオーソ、ティシモ、ウィロ、ヴァーチェ。あとは……現在の国王家……ですか?」
「ふむ、間違っていないが……正答ではないな」
イレイスはそう呟いて、単独で歩き始めた。スイレンの制止はもはや聞いていなかった。
たったひとつの鍵は、イレイスが一人で手に入れなければならないのだ。

見知らぬ街に独り放り出されることになってしまったスイレンはひとつため息をついた。
スイレンは独りにされると全く身動きが取れなくなってしまうほどの子供でもないし、イレイスは常に気配りをしておかねばならないほど危なっかしくもない。
それに、スイレンにも目的があった。だが、ここは先に取り交わしてある約束を果たすことが先決だろうか。
というわけで、スイレンは魔法使い倫理委員会ラゼリア支部へと向かった。そこはカルツと落ち合おうと約束した場所だった。
魔法使い倫理委員会ラゼリア支部。王都に所在する支部ということもあって、スイレンが今まで訪れたことのある支部の中では最も規模の大きい。
中には支部で働く委員の他に一般人もそれなりに居て、なかなかにぎやかな場所であった。
取次ぎの人間にカルツのことを話すと、すぐに会えるように手配をしてくれた。
待つことしばし。スイレンのもとにカルツがやってきた。今回はイストは一緒ではないらしい。
礼儀正しいカルツは「お待たせしてすみません」とスイレンに謝ってから席についた。
「スイレンさんお独りですか?」
「ええ…イレイスさんは何か思うところがあるようで、どこかに行かれてしまいました。
 まあ、何かしら思うところがあってのことだと思うので、そのままどこかに行ってしまう…ということはないと思いますけど」
「なるほど。イレイスさんから頼まれていたシェンド伯の裁判を傍聴する件、上司の許可が下りました。
 ですので、お二人は我々の関係者という形で一緒に行動していただきます」
「わかりました。ところでそちらのお仕事の方はうまくいきました?」
「それが、なかなか…あ、スイレンさんが気にすることではないですよ。これは我々の仕事ですから」
スイレンが謝ろうとすると、カルツは慌ててスイレンを制した。とは言うものの、スイレンばかりうまくいってはなんだか申し訳ない。
「そうそう、どうやら明日の午後にもシェンド伯はラゼリアに到着されるようです。
 推測ですが、明後日は終日取り調べが行われ……シェンド伯が無実であればおそらく明々後日には裁判が執り行われるでしょう。
 ですから、明々後日の朝、イレイスさんとお二人でもう一度ここに来ていただけますか?」
「ええ、わかりました」
スイレンは言葉と同時に頷き、少しだけ窓の外を見やった。
外はもう日が暮れる。ラベンダー色の空に気の早い星がちらちらと姿を見せ始めている。…つまり、イレイスに残された時間はそう多くはない…ということだ。
「それでは、今日はこのあたりで。お疲れ様でした」
「はい、また明々後日」
スイレンはぺこりと頭を下げ、その部屋を後にしたのだった。



「さてと……やはりアイツを連れてくれば……いや、それはそれで面倒か。」
イレイスは、大通りを歩いていた。シェンド伯が冤罪で捕縛されたのは騒ぎになっているらしく、そのことについて書かれた嘘か真かわからぬ新聞が大量に販売しているのがちらちらと目に入る。
「……その事件で、ラゼラル中が大騒ぎさ!旅人さん、一部、買わないかい?」
どうやらいつのまにかそこに焦点が行っていたのだろう。恰幅の良い女性が、イレイスにむかって笑顔で新聞を一部差し出す。
「……一部、もらおうか。」
「はいよ、毎度ありッ!」
イレイスは店員に代金を支払い、ぱらぱらと流し読みをしていく。半分以上憶測で書かれたその記事は、人の想像力がどれだけ果てしないかを物語っている。
「……ん?」
ふと、記事の一部が目に入った。

―…兵士が乗り込んだとき、クレス伯爵の傍には一人の不審者の影が!
   現場に乗り込んだ兵士(32)曰く、彼は若い青年で、漆黒の衣装を身に纏っていたとのこと。
   捕らえようとしたところ、魔法を使われて逃がしてしまった。
   しかもその魔法はなんと暗属性であり、クレス伯爵との関係の究明を急ぐものとしている―…

記事の上には一枚のイラストが載っており、黒尽くめの男が不敵に笑っていた。
えらく悪人顔に書かれてしまった写真の人物に思い当たる節のあるイレイスは、思わず口元がほころぶ。
えらく、楽しそうな事をしているな、とどこか他人事のように思っていた。
「……ご婦人、この新聞の絵の人物について何か知っていないか?」
笑いをかみ殺しつつ、勤めて真面目な顔でイレイスは店員に聞く。
「やだぁご婦人、なんて。えーと、私は只の売り子だからあんまり知らないけど―…」
「そいつ、賞金首になってた奴だっつの。新聞売りなんだから覚えとけよ。」
話に一人の男が割り込んでくる。年は少し上、というところだろうか。
街の中であるのに、剣を腰に刺しかっちりと武装しているところをみるかぎり、只の通りすがりというわけではなさそうだ。
「あら、あんた盗賊の討伐に行ったんじゃなかったの?」
「それは昨日の話だろ……」
売り子の女に、剣士の男は突っ込みを入れる。それなりに友好はあるらしい。だが、それよりもイレイスは聞きたい事があった。
賞金首に、なっていた?
そう、過去形なのがひっかかったのだ。
「ああ、そうだよ。たしか―…ほら、これだ。」
剣士は懐をごそごそとまさぐり、一枚の紙をイレイスに差し出す。
イレイスはそれを受け取りひろげると、とんでもなく凶悪に書かれた弟の顔があり、今度こそ噴き出しそうになるものの、すんでのところで踏ん張る。
「……賞金がかなり高額のようだが。」
普通の賞金首に比べて桁が2つほど多い。
3人殺しても届かないような凶悪犯に仕立て上げられていて、普段の行為を知っているイレイスとしてはあまりにも現実味を帯びない価格だった。
「ああ。なんでも今回の事件のキーパーソンだってよ。んで、破格だからやり手の賞金ハンターが動いた事もあって、二日ほど前に捕まったそうだぜ。」
「ほう。なるほど……捕まったのか……。」
「そうそう。クレス伯爵の裁判も控えてるからか知らねぇけどよ、ラゼラルの北東にあるらしいグラ・ノワールっていう国からお偉いさんがやってきたとか
 ……全く、どうなっちまうのかねぇ、ラゼラルは。」
最後の言葉は剣士の男の独白といったものだったが、イレイスはぴくりと反応した。
「……なるほど、それは良い事を聞いた。」
にやり、とイレイスが笑う。どうやら運命の女神とやらは此方に微笑んでる事を確信する。
「良い事、ねぇ。確かに凶悪犯は捕まってるんだから、良い事と言えば良い事か。」
「なぁ、悪いのだが、この賞金首のチラシを貰っても良いかね?」
イレイスの言葉に、剣士の男は訝しげな顔をする。
「別に良いけどよ……そんなもんどうするんだ?」
「ちょっと判定を覆すのさ。」
イレイスの顔に、剣士の男は呆気に取られたような顔になる。
イレイスはそのまま軽く手を振り、通りを歩き出しながら本日の宿は何処にするかを考えていた。



結局、その日の夜は適当な宿で過ごすことにし、そこでスイレンと一時的に合流した。
「イレイスさんってば、急にふらっと行ったかと思うとすぐに合流しようだなんて……」
スイレンは少しだけ少々身勝手ともとれるイレイスの行動に、少しだけむくれていた。ちなみに一時的に同じ部屋に居るだけで、寝るのは別の部屋だ。
「……ま、色々思うところがあってね。スイレン、お前は裁判のこと、どうなると思う?」
「え?さ、裁判ですか?……証拠も見つけましたし、クレス伯爵の無実が証明……とまではいかないものの、有利な判定になるんじゃないんですか?」
そう、フィリンツに施されたセットメモリーの魔法が封じた小物を差し出したのだ。
灰色ならともかく、クレス伯爵はもともと何もしていない、完全なる潔白。スイレンがそう答えると、イレイスは一つ息を吐いた。
「私はそう思わない。」
「……はい?」
イレイスの切り捨てるような言葉に、スイレンは首をかしげる。イレイスはなおも言葉を続ける。
「強すぎる権力は、全てをうやむやにできる。黒を白に変えられる。その逆もまたしかり。
 権力者の大半は、自分にとって都合の悪い真実は虚偽に変えようとしたくなるものだ。」
「それって……」
イレイスの言いたい事を理解したらしく、スイレンの顔色がさっと変わる。そう、只の旅人が提示してきた物品など、簡単にもみ消せる。
それがたとえ魔法使い倫理委員会を通してきたとしてもだ。
「ああ。だから私は明日保険を掛けに行ってくる。だから、お前は一日ゆっくり観光でもしてろ。」
「そんな、私も行きます!」
イレイスの提案に、スイレンは声を上げて反対する。自分がついて行って何が出来るともわからないが、ただ待つだけというのが悪いような気がしたのだ。
「別に良いが、つまらんぞ。多分入り口で大分待たされると思うが。」
「つまらないって……別に私は状況を楽しもうとも思ってません……」
結局、今日の話はそこまでになった。
スイレンは何処に行くのかとイレイスに問うてみたものの、帰ってくる言葉は内緒、というとてもとても似合わない返答をされた事をここに追記しておく。


翌日、イレイスが行動を始めたのは随分と日が高くなってからであった。宿のチェックアウトを済まし、大通りを迷い無く歩いていく。
「ねぇ、イレイスさん、本当に何処へ行くんですか?」
「だから内緒だ。気軽に口外できるようなことをしに行くわけでは無いからな。」
「……え、それって……」
思わずスイレンの顔がこわばる。あのイレイスが発言するのもはばかるような事をやらかしに行くということに気がついたのだ。
今からすることはどう考えても一介の旅人がやるようなことではない。もしかしたらとんでもない犯罪行為に手を貸すはめになるのでは?と、スイレンの思考が回る。
「言っておくが。別に傷害沙汰を起こすわけでは無いぞ。少々話し合うだけだ。」
「だからそれがちょっと……ええと、まっとうな話し合いですよね?」
スイレンの顔は、どこかおびえたようなものになっていた。深く考えれば考えるほど、イレイスという人柄を考慮してしまい、嫌な方向に結論がたどり着く。
さぁて、どうだか。
にや、と嫌な笑いを浮かべてひょいと肩をすくめると、スイレンの顔色が真っ青になる。
「……そういう反応が帰ってくるだろうから何も知らない事にしておけばよかれと思って私は観光を進めたのだがね。」
止めとばかりのその一言は、スイレンの心にぐっさりと突き刺さる。思わず涙目になってしまい、口があうあうと意味も無く開いたり閉じたりする。
あ、あああ、あの、あのあの!!
声を高らかに上げて必死に止めようとしてみるものの、果たしてそれは良いのだろうか。
スイレンが半分停止しかけた頭でわたわたしていると、イレイスが耐え切れないとばかりに吹き出した。
「まあ、冗談だが。それにしても、スイレンは面白いほどに引っかかるなあ。」
くつくつと笑うイレイスに、今度こそスイレンが憤慨する。顔を恥ずかしさと怒りで真っ赤にし、肩をわなわなと震わせていた。
「もー!!イレイスさん!私で遊ぶのは止めてください!!」
スイレンが怒るが、イレイスは表情をすぐに真面目な物に戻す。
「……だが、口外できるような場所には行かないというのは真実だ。」
いきなりそういう風に真剣になるのだから、スイレンがハッとなり、口を閉ざす。ずっと内緒だと一貫してきたのだ。その行為が全く無意味だとはとても思えなかったのだ。
なのに、しつこく聞いたものだから、回答をごまかされたのだろう。その言動は間違っておらず、むしろこちらが悪かったのかもしれない―…
等と、スイレンが己の行為に少しだけ恥じている隣でイレイスは声にこそ出さなかったが、
(……私の言動を全て鵜呑みにして、ブロウ並に面白いなぁ、コイツ。)
と思っていたことは誰も知らない。



さらにしばらく歩いて、ラゼリアでもかなり都心より離れた場所まで行く。
「……なんですか、此処……」
城からもかなり距離があるというのにかかわらず、そこには石造りの立派な建物があった。
しかも、かなり警戒態勢がしかれているようで、ラゼリア兵があちらこちらに立っている上、中には明らかに場違いの自分達を見つめている兵士もいる。
「ラゼラル王国北東に存在する王政国家、グラ・ノワールの大使館ですが何か。」
「グラ・ノワール?聞いた事ないんですけども……」
「ま、王政を敷いている上完全に鎖国だからな。今までラゼラルに全く関与していないのだから、知っているものも少ないさ。」
へぇぇ、とスイレンはイレイスの言葉に感心したような声を出す。
「おい、そこの兵士。」
イレイスはスイレンが建物をしげしげと見つめている間に、こちらを注目していた兵士のひとりに話しかけた。兵士は此方を向くが、黙っているままだ。
「悪いが、グラ・ノワールの者に話をしたい。上のものに伝言を頼めるだろうか?」
「申し訳ございません。そういった行為は一切禁止されております。」
言い方こそ丁寧。しかし、言葉の端々には並々ならぬ警戒心が見て取れるが、イレイスはひょいと肩をすくめ、言葉を続けた。
「おやおや―…そんな事を言うが、私はアチラに頼まれて此方に赴いたのだがね。」
ぴくり、と兵士が明らかに不快そうな顔に変わる。
「……何、難しい話じゃない。たった一言伝えてくれば良い。白いお兄さんがやってきたとな。何、意味は知らないさ。向こうに言えといわれたからな。」
兵士が、実に嫌な顔をする。面倒ごとを嫌う上、こんな胡散臭い旅人の話を信じられるわけがなかった。
「……わかりました。お伝えしてみます。」
兵士はそういうと、大使館の中へと入っていく。イレイスはその姿を見送ると、スイレンの傍まで戻る。
「だから昨日、急に居なくなったんですか?」
「ん?何がだ?」
「え、ですから、ここの上の人にアポイントメントを……」
「いや。そんなもの取って無いぞ。さっき言った事もハッタリだが。」
イレイスの信じられない言動に、スイレンは目を二・三度しばたかせる。ラゼリア兵士に嘘をついたのだ。下手をすれば自分達でさえも捕まってしまうのではなかろうか。
「そう心配するな。ちょっとした縁があってな。追い返したりはしないだろう。」
「はあ……」
イレイスの根拠の無い(少なくともスイレンにはそう見える)自信に、スイレンは生返事をすることしかできなかった。
最も、グラ・ノワールという街の存在すらも知らなかったのだが。
「あの、イレイスさん、さっきもおっしゃってましたが鎖国ってどういうことなんですか?」
「そのままの意味だが。グラ・ノワールは書類上でこそラゼラル王国の一部地域だが、突き詰めるとグラ・ノワールは一国家として成り立っている。
 少々特殊な価値観故、金印こそ所有しているものの、その権力を使った事は一度も無い。
 またラゼラル全体の歴史をひもといてもグラ・ノワールの名前は全く無い。完璧なほどに引きこもりの国だな。」
「……引きこもりって、嫌な言い方ですね。」
「良い得て妙と言ってくれ。実際、ラゼラルも気に食わなくて戦争を何度か仕掛けたことがあるようだが、全て返り討ちにあっている。
 現在は金印を渡す事でラゼラルに無理矢理加入させているようだが……ラゼラルにとってやりにくすぎる相手には違いないさ。」
そこでにやりと、イレイスはそこで嫌な笑みを浮かべた。スイレンはブロウではないが、その笑い方をするイレイスになんとなく警戒心を抱く。
「お待たせしました。……そちらの白い旅人様のみですが、面会の許可が下りました。」
見計らったようなタイミングで、兵士が告げてくる。
「彼女については、何か聞いていないか?」
イレイスが横に居るスイレンを指す。
「決して中に入れるな、と。」
「そうか。どうする?」
予定内の範疇だったらしく、特に怒ることも不機嫌になる事も無くイレイスは聞く。
「あ、なら、私は私の用事をすませてきます。」
「そうか。ま、うまくやれよ。」
「はい。」
スイレンはぺこりと軽くイレイスに頭を下げると、そのまま去っていくと、イレイスは兵士に連れられて、大使館の扉をくぐったのだった。


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